中学1年生の秋、家族と一緒に見ていたテレビの歌番組が私の人生を変えました。出演していたのはAKB48。その中でオーラを発している女の人がいました。曲は「上からマリコ」。心を奪ったのは、センターにいた篠田麻里子さんでした。ショートの髪形が私にそっくり。福岡県出身と知って、ますます親近感を覚えました。
それまではアイドルに興味がなくて、AKB48も名前を知っているくらい。そんな私が、篠田さんに夢中になりました。家族や友達にも、篠田さんの話をよくしていたようです。博多を拠点にしたAKB48の姉妹グループHKT48のメンバー募集を伝える新聞を祖母がもってきてくれました。
合格すれば篠田さんに会えるかもしれない。でも、合格するわけない。深く考えずにオーディションに応募しました。1次の書類審査を通過して、上手に話せなかった2次の面接。最終審査は歌とダンス。人生で一番緊張しました。まず歌の審査。さびに入る前に審査員の秋元康先生に止められました。「何でだろう……。もうダメだな」と思いました。ダンスも未経験。審査の前にダンスの先生から1時間ほど振り付けを習うのですが、覚えられず、審査では全くと言っていいほど踊れませんでした。ダンスの先生が、私の踊る姿を見て首をかしげていたのを覚えています。
「踊れなくても最後のポーズだけはちゃんとして」と先生が教えてくれていたので、最後のポーズだけちゃんとしました。その以外の場面については、もう記憶から消えてしまっています。
その日に合格発表があって、私の番号が呼ばれました。「聞き間違えかな。でも確かに言われた。なんで?」。びっくりして、頭が真っ白になりました。
奇跡的に合格しましたが、大変だったのは、それからです。正式に研究生になるまでにはセレクション審査を通過しなくてはなりません。ダンスの基礎練習をして、審査にのぞむまでがすごくつらかった。
レッスンが終わっても、体育館や自宅で練習を続けました。その頃は、思うように踊れなくてずっと泣いていました。メンバーたちは優しかったです。特にダンス経験のある坂口理子ちゃんやまなみちゃん(草場愛)。私がいつも泣いていたからだと思います。
つらいレッスンの日々を終えて、迎えた公演デビューの初日。緊張しかありませんでした。楽しくてうれしかったけど、緊張という言葉が一番。歌って踊るのが精いっぱいでした。特に難しかったのはお客さんとのアイコンタクト。余裕がない上に、人見知りでしたから。それでも少しずつ慣れてきて、アイコンタクトもできるようになりました。
普通の中学生だった私がステージで歌って踊っているのが不思議でした。しかも人前に立つのが苦手なタイプ。アイドルは絶対、自分には経験できない遠い世界と思っていたのに、なぜ、自分はここにいるのだろう。そんな感覚は今でもあります。
私を変えたのは篠田さんへの憧れ。デビュー後、ついに篠田さんにお会いできる日がやってきました。私は昨年5月に発売されたシングル曲「さよならクロール」でAKB48のシングル選抜に入り、ミュージックビデオの撮影で沖縄を訪れました。もちろん、篠田さんも一緒です。
篠田さんはきれいで身長も高いので、どこにいても目が行ってしまいます。だけど、私は恥ずかしくて遠くから見つめるだけでした。
チャンスをくれたのは同じHKT48の指原莉乃さん。私が篠田さんに憧れて、HKT48に入ったことを知っていたので、ご飯を食べるとき、紹介してくれたんです。すごく緊張しましたが、「憧れて入りました」と伝えると、「すごくうれしい」。そして、そっくりの髪形を見て、「妹みたい」と言ってくださいました。ご飯の間、ずっと一緒でしたが、思った通り、すごく優しい人でした。
7月、AKB48の福岡ヤフオク! ドームコンサートで篠田さんは卒業することになりました。コンサート終了後、舞台裏で反省会が終わり、みんなが帰る準備を始めました。私は自分から篠田さんに声をかけることができず、マネジャーさんに呼び止めてもらいました。そして2人並んで記念撮影。去り際に篠田さんが話してくれました。「かわいい曲を踊っている時の笑顔はできているから、格好いい曲を踊る時のシリアスな表情ができるようにがんばってね」。私のことを見てくれていたんだ、とすごく驚きました。憧れの先輩からのアドバイスはうれしかったです。
それ以来、DVDで格好いい曲を踊る篠田さんの表情を見て、練習しています。いいところを全部を取り入れたいくらいの気持ちです。かわいい曲の時は篠田さんに自分らしさを加えるようにしています。
「自分らしさ」は笑顔です。篠田さんもファンのみなさんもメンバーも「笑顔がいいね」と言ってくれています。いつも笑顔でいよう、と思っています。でも、笑顔でいられるのは、まわりにいるみなさんのおかげ。だから、常に感謝の気持ちは忘れないでいます。
■番記者から
「すごく人見知りするんです」と言う。初対面の記者に緊張ぎみ。それでも、自慢の笑顔は絶やさなかった。AKB48の各グループの次世代エース候補で結成された「てんとうむchu」のメンバーのひとり。まだ15歳ながら、HKT48を引っ張っていく存在として注目されている。
目標は「HKT48を世界に通じるグループにすること」。九州の各県をまわるHKT48のコンサートツアーでは、グループの成長を実感しているという。
「最初の頃はすべてが精いっぱいで、公演の開演時間が遅れたこともあったし、公演以外でも、スタッフさん頼り。でも、最近は自分たちで時間を見て、呼び合って行動ができるようになりました」。そう語るときは満面の笑顔。「AKB48の先輩たちは優しくされています」と渡辺麻友と渡辺美優紀(みるきー)の名前を挙げた。「渡辺麻友さんは、初めての被災地訪問で何もわからないときに、インタビューの受け答えを教えてくれました。渡辺美優紀さんはよくお話をしてくださいます。大阪弁がかわいくて、ほわほわしています」
「アイドルでいるのが不思議」。そう語るが、その生活にもなれてきた。「がんばってね」「応援するよ」「いつまでもついていくよ」。ファンの言葉を耳にすると、元気がわく。特技はどこでもすぐに眠れること。「落ち込んだときは睡眠をとると、すっきり忘れます」(大西元博)