さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04587/

 電力小売り全面自由化がスタートした2016年。政府が電力システム改革の「貫徹」を掲げ、最も力を入れた制度導入が、東京電力・福島第1原子力発電所事故の賠償費用と、廃炉の前倒しにかかる費用の託送回収だった。電力を選択できる時代にあって、全需要家に原子力関連の費用負担を求める制度が、この10月から実施に移される。新電力は需要家にどう説明するかが改めて問われる。


 電力全面自由化から日も浅い2016年から2017年にかけて、原子力発電関連費用の一部である「賠償費用の過去分」や「廃炉会計費用」を、託送料金で回収することが決まったことを、ご記憶であろうか。

 この託送料金の改定が、2020年10月1日から適用される。

 大手電力か新電力かを問わず、託送料金が改定されれば、通常は小売料金を改訂する。

 詳細は後述するが、実は10月1日以降、当面は小売料金自体を変更しないで済ますか、エリアによっては値下げとなるケースもあり得る。それでも“中身”が変わることに変わりはない。

 資源エネルギー庁は電気料金の内訳における「費用(回収額)の透明性の確保」を求めている。これに従うとすれば小売電気事業者には需要家への説明が求められるところだ。

 ことは国民の間で議論が割れやすい原発に関連することでもある。小売電気事業者や政府の対応はどうあるべきか。

 それらを考える前に、今回の託送料金変更をまず押さえておこう。料金改定は表1のとおりである(沖縄電力は対象外)。


◆過去の「不足額」をこれから徴収

 託送料金は一般送配電事業者9社のうち5社が値上げ、4社が値下げとなっている。値上げする5社は新型コロナウイルス感染症に伴う需要家の負担に配慮する観点から、2021年9月30日まで現行料金に据え置くとしている。

 なお、大手電力の小売部門は、託送料金変更に伴う小売料金の改訂に関して、まだ方針を公表していない。

 なぜ、原発事故の「賠償負担金」を託送料金で回収することになったのか。まずは、4年前の議論を振り返っておこう。

 東京電力・福島第1原発事故に関する賠償総額は、現時点で7.9兆円と見積もられている。原発事故後、新たに原賠機構法(原子力損害賠償・廃炉等支援機構法)が制定され、2011年の施行以来、原子力発電事業者(大手電力)は毎年一定額を原賠廃炉機構に納付している。

 本来、こうした賠償への備えは原発事故以前から確保しておくべきだったが、事故以前から存在した原子力損害賠償法においては制度的な措置は講じられておらず、賠償に備えるべき費用が電気料金原価に算入されることもなかった。

 このため、原発事故前に確保しておくべき賠償への備えが「不足している」というのが政府の“理屈”である。そして、事故前から備えておくべきであり、結果として不足している金額(「過去分」と呼ぶ)を、政府は約3.8兆円(3兆7631億円)と算定した。

 「過去分」であっても本来は原子力に関する費用であるので、原子力発電事業者自身が賄うのが筋だろう。ただ、従来は小売料金規制が存在したため、賠償費用を電気料金に反映する仕組みは整備されていなかった。


◆料金制度の不備や公平性の観点から託送料金での回収に

 2011年の原賠機構法成立以降は、大手電力の小売料金を改定することにより、大手電力と契約する需要家から総額約1.3兆円(1兆3233億円)が2020年までに回収されている(図1のB)。では、過去分約3.8兆円から回収済み約1.3兆円を差し引いた約2.4兆円(2兆4398億円)をどのように回収するのか。

 原子力発電事業者の負担ということであれば、2016年の小売全面自由化後、大手電力から新電力へ切り替えた需要家は「過去分」を負担しないことになる。しかし、政府はそれは受益者間の「公平性等の観点からは問題」であると結論づけた。託送料金であればすべての小売電気事業者、つまりすべての需要家が等しく負担することになる。過去に原子力による電力を使用していたか否かは問われない。

 つまり、原子力発電事業者という原因者負担に重きを置くのではなく、料金制度が不備であった観点や、需要家の公平な負担という観点を重視することにより、託送料金によって回収する制度となった。

 この結論に対しては大半の新電力や消費者団体などからは大反対の声が上がった。それを最終的には政府が押し切ったと言っていいだろう。

 https://twilog.org/Spia23Tc/search?word=%E5%8E%9F%E7%99%BA%20%E8%A8%97%E9%80%81&ao=a


 なお2016年当時の議論では、新電力シェアを10%と仮定することにより、新電力の負担額を0.24兆円と試算していたが(東電負担3.9兆円、東電以外の原子力発電事業者負担3.7兆円)、実際には2020年3月時点でシェアは16.1%となっているので、当初試算より新電力全体の負担は増大することになる。

 この託送料金を通じた「賠償費用の過去分」の回収は、年間約600億円程度を、2020年度以降、40年間にわたって回収していくという遠大な計画だ。


◆廃炉前倒し費用も託送回収

 託送料金で回収することになったもう1つの原子力関連費用が、廃炉会計費用(廃炉円滑化負担金)である。

 従来の会計制度では、原子力発電事業者が予定よりも前倒しで廃炉する場合、設備の残存簿価が一括減損となり、一時的に多額の費用が生じてしまう。このことが事故後の対応として、早期廃炉を妨げる大きな要因になると考えられた。

 そこで2013年に「廃炉会計制度」を見直し、分割償却と費用の分割計上を可能にした(総額は変わらないが平準化される)。

 この制度変更により、原子力発電事業者7社が計15基の原発の早期廃炉を決めた。当時は大手電力が小売料金(規制料金)を通じて分割費用を回収していたが、これも2020年以降の小売料金規制の撤廃を見据え、託送料金を通じて回収することとなった。

 一般送配電事業者ごとの「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」の合計額はリンクのとおりである。

https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200722006/20200722006.html

 今回の託送料金改定には「値下げ」要因も含まれている。

 現在、託送料金の内訳として「使用済燃料再処理等既発電費」が回収されている。これは2005年の再処理積立金法に基づき、原子力発電に伴って発生する使用済燃料の再処理に必要な資金を積み立てる制度であり、2020年9月までの15年間にわたって託送料金を通じて回収するというものだった。

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/kihon_seisaku/denryoku_kaikaku/zaimu_kaikei/pdf/04_04_00.pdf#page=17

 この9月に終了する「既発電費」と、新たに回収が始まる「賠償負担金」などの金額の大小により、一般送配電事業者の中でも2020年10月以降にトータルで値上げとなる事業者と値下げとなる事業者の違いが生じてくる。

 小売料金の原価である託送料金が改定されるため、小売料金の改定のあり方が最重要となる。新電力、とりわけ大手電力と類似した料金体系を採用する新電力は、大手電力の動きを見たうえで、自社料金を値下げするか据え置くかの判断をすることになるだろう(2021年9月までは託送料金を値上げする一般送配電事業者はないと考えられるため)。

 小売電気事業者には料金改定に伴う様々な費用(いわゆるメニューコスト)が発生する。チラシや約款などの変更・再配布費用、料金計算システムの変更費用などである。しかも今回は、エリアによっては今年ではなく、1年後の値上げが想定されるため、複数エリアで小売りを手がける事業者にとって、悩ましい判断が求められそうだ。

 ここでは、各社の値下げの有無やその水準を推測することはせず、需要家、特に一般消費者とのコミュニケーションに関する論点を挙げたい。


◆政府にも求められる需要家への説明責任

 現在、「託送料金相当額」を請求書などに明記することが、適正取引ガイドライン(適正な電力取引についての指針)で、「望ましい行為」と位置付けられている。

 また、9月に改定される小売ガイドライン(電力の小売営業に関する指針)においては、「賠償負担金」や「廃炉円滑化負担金」を請求書などに記載することが「望ましい行為」と位置付けられている(筆者注:「望ましい行為」は電気事業法上の義務ではなく、罰則もないため、消費者団体などは実効性に疑問を呈している)。

 東京電力エナジーパートナー(東電EP)の場合は現状、検針票(家庭向け)に託送料金平均単価9.26円/kWhとならんで、「平均単価には法律で定められた使用済燃料再処理等既発電費相当額0.112円および電源開発促進税0.406円が含まれております」と記載している。

 これに習えば今後は、「平均単価には法律で定められた賠償負担金相当額0.0814円、廃炉円滑化負担金相当額0.0603円、および電源開発促進税0.406円が含まれております」と記載されることになると考えられる(数値は筆者の試算で、誤差を含む可能性がある)。

 本来は10月に0.03円値上げするはずだった東京電力パワーグリッド(東電PG)は託送料金を1年間据え置く予定であり、東電EPも同様に現行の経過措置料金を1年間据え置くと推測される。この「据え置き」が混乱を招く可能性がある。

 託送料金を値上げしないこと自体は、賠償負担金を回収しないことを意味しない。託送料金の据え置きは、別の費目を1年間値下げすることにより相殺しているのであって、賠償負担金は今年10月時点から、エリアを問わず全需要家が負担し始める。

 そうであれば、大手電力の小売部門だけでなく新電力もこの10月から、小売料金を通じて、託送料金とその内訳としての賠償負担金請求を消費者に分かりやすく、丁寧に、事前に説明する必要があるだろう。そうでなければ、エネ庁が目指す「回収額の透明性の確保」どころか、回収していることすら需要家に知らせないという状態が1年間継続することになりはしないかと懸念する。

 おそらく大手電力の小売部門は全社とも、従来通り検針票などに賠償負担金などを記載すると推測される。これに対して、本来この制度変更に反対していたはずの、そして現実にいわれなき負担を背負うことになった新電力各社はどのように対応していくべきか。

 また、請求書などへの記載が「望ましい行為」に留まるなか、エネ庁はどのように「回収額の透明性の確保」の実効性を上げていくのだろうか。

 今回の件は、原因者負担の原則を曲げて、本来は原子力発電事業者が負担すべき費用を託送料金を通じて回収するという、極めて例外的な措置が講じられた制度である。

 その経緯や理由、内容は一般消費者には非常にわかりにくいものだ。一般消費者と直に接する新電力は大変な難題を押し付けられた形となっている。

 この説明負担を新電力などの個別事業者だけに押し付けるのではなく、エネ庁が先導し、また消費者庁などの他の省庁と連携することにより、業界一体となって消費者に丁寧に説明すべきではないだろうか。

 この件は、遵守せずとも問題なしとする、その他の「望ましい行為」と同等に位置付けられるべき問題ではない。今後40年間に渡って徴収する難解な費用について、消費者の理解を進めるべき重い責任が政府にもあるはずだ。
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