さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00145/110400024/?n_cid=nbpnb_mled_mpu


 甚大な被害が頻発するようになった風水害。中でも2019年10月に関東圏を襲い、川崎市・武蔵小杉駅周辺のタワーマンションに浸水被害をもたらした台風19号はまだ記憶に新しいだろう。その余波はまだ残っている。

 被災した川崎市の市民が市を相手取り、損害賠償を求める集団訴訟を準備している。台風19号多摩川水害訴訟弁護団長を務める川崎合同法律事務所の西村隆雄弁護士は、「多摩川に沿った地域の浸水被害は、川崎市が排水樋(ひ)管ゲート(水門)を適切に閉じて川からの逆流を防がなかったために発生した人災だ」と指摘する。

 排水樋管とは、雨水などを集めて河川に排出するためのもので、その水門の開閉は市が管理している。台風襲来時、その管理が不適切だったため、豪雨によって増水した多摩川の水が排水樋管を逆流し、市内のあちこちでマンホールや側溝から泥水が噴出する内水氾濫を引き起こしたと主張しているわけだ。

 被災者の1人で、「台風19号多摩川水害を考える川崎の会」事務局の船津了さん(68)は、自宅(戸建て)が床上約20cmまで浸水した。罹災(りさい)証明の発行件数に基づく川崎市の被害は床上浸水1258棟、床下浸水411棟に及ぶ。この災害による死亡は1人、家屋の全壊が33棟、半壊は948棟に上った。武蔵小杉駅周辺に林立するタワーマンションの一部では電気設備が水没して建物が機能不全に陥るなど、全国的に注目を集めることとなった。

 川崎市の浸水被害が甚大だった一方、多摩川の対岸に位置する東京の世田谷区や大田区では早い段階で排水樋管を閉じ、限定的な被害にとどめた。船津さんは「川崎市は閉門の判断が遅れた責任を認めていない。被害救済と再発防止のために市の法的責任を明らかにする」と憤る。

 現在、原告団は戸建て住宅の住民を中心に50人を超えている。分譲マンションの理事会からも「原告団に加われるか」との問い合わせが事務局にあったが、現時点では入っていない。訴訟を提起する時期については「遅くとも20年度内に」(船津さん)という。

 川崎市内で、排水樋管を通じて多摩川の水が逆流したのは、台風による豪雨で河川の水位が上昇し、周辺地域の最低地盤高を超えたことが要因だった。国土交通省によると、行政による水門操作は「洪水による河川からの逆流防止」を目的としている。台風が襲来した19年10月12日は、15時から19時ごろまでに、市内5カ所ある排水樋管で多摩川の水位が周辺地域の最低地盤高を超えており、逆流の危険性がある状況だった。しかし、市は閉門の判断を下さなかった。

 川崎市上下水道局下水道部の藤田秀幸担当課長は、「当時の操作は手順に従ったものだった」と説明する。市の手順書では、内陸部に降雨がある場合は、住宅地に降った雨を多摩川に排水するため、水門を開けておくとされていた。原告側は、市が職員によるパトロールで市内の内水氾濫を確認していたが、即座に水門を閉じる判断を下していないと主張している。その結果、多摩川からの逆流が発生しても水門は開いたままとなった。武蔵小杉に近い排水樋管では19年10月12日15時から翌13日7時まで16時間も逆流が続いたとみられる。

 市の言い分に対して、訴訟弁護団長の西村弁護士は「川崎市の操作手順には『適宜河川水位を観測し、総合的に水門開閉を判断する』と明記されている。しかし、『降雨がある場合は水門を閉めない』という」と指摘する。「水門を閉めるのがちょっと遅かったというレベルではない。川崎市の責任は明らかであり、裁判を通じて川崎市に責任を認めさせ、被災者の生活再建と再発防止を求める」(西村弁護士)。

 豪雨時に水門を閉じなかったことによって発生した水害を巡る裁判は、北海道日高地方の「沙流川水害訴訟」の前例がある。03年の台風10号によって沙流川上流にある二風谷ダムが決壊しそうになったため、北海道開発局はダムの水を放流した。この際、職員が下流の水門を閉じずに避難したため、支流に逆流が起こり周辺地域に水害が発生した。この訴訟では札幌高等裁判所が管理者としての国の責任を認め、12年9月に賠償を命じている。

 近年は集中豪雨の発生頻度が高く、局所的な水害のリスクが増している。川崎市も20年7月から水門操作のルールを変更し、排水樋管で雨水の排出と河川水の逆流が拮抗する前に水門を閉じる手順に改めた。日本のどこでも河川水の逆流による水害が発生し得る恐れがある。各自治体は水門の操作マニュアルを今一度、確認する必要がありそうだ。

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