さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00004/00008/?n_cid=nbpnxt_mled_nen

 11月から再エネ指定の非化石証書の発行が始まりました。これに伴い、電力・ガス取引監視等委員会は、「FIT電気」と再エネ指定非化石証書を組み合わせた電力の表示を、現状の「実質再エネ」ではなく、「再エネ」と表示できるようにするかどうかを検討しています。
 再エネに関する制度は、「FIT電気」「再生可能エネルギー電気」「実質再エネ」など、似て非なる用語が多数存在し、非常に分かりにくいのが難点です。そこで今回は、各用語の意味やFIT電気の調達手法である「再エネ特定卸供給」、さらにはFIT電気の調達実務、現在検討されている制度変更について解説します。


【質問1】 「FIT電気」とはそもそも何なのでしょうか。また、FIT電気には再エネとしての価値がないと言われます。これはどういうことなのでしょうか。

【回答1】 「FIT電気」という用語の意味を正確に理解するには、FIT制度の全体像を思い起こす必要があります。

 FIT(固定価格買取制度)を利用して売電する再エネ発電事業者は、卸電力価格(市場価格)よりも高額な固定価格によって電力を買い取ってもらうことができます。市場価格を上回る金額分は、最終的には電気料金への「再エネ賦課金」(再生可能エネルギー発電促進賦課金)の追加という形で、電力の需要家の支払いによって支えられています。

 再エネ導入という政策目標の下、すべての需要家のあらゆる電力の使用に応じて、広く再エネ賦課金を課すことから「国民負担」と表現します。

 FITは電力の需要家が支える再エネ導入支援策であるため、FITを利用する再エネ発電所(以下、FIT発電所)で発電した電力に付随する「再エネによる環境価値」は、すべての需要家に均等に帰属していると整理されています。

 小売電気事業者がFIT発電所で発電した電力を販売する時、もし無条件に「再エネ」と表示して割増料金を設定できるとすると、「再エネ」と表示することによる割増分を小売電気事業者が利益として得ることになってしまいます。

 FIT発電所による環境価値は、すべての需要家に帰属しているわけですから、小売電気事業者に割増料金を払っても、需要家が手にする環境価値が増えるわけではありません。需要家が支払う割増料金は再エネ賦課金とは別のものであり、国民負担の軽減にもなりません。こうした仕組みになっているため、FIT発電所による電力は、販売時に「再エネ」と表示できないのです。

 そこで、環境価値が付随しないFIT発電所に由来する電力を示す言葉が必要になり、「FIT電気」という用語が誕生しました。FIT電気という用語は、電力小売りの場面において、「再エネとしての環境価値を含まない電力」という理屈を説明するために使う特殊な用語なのです。


【質問2】 FIT電気が再エネとしての環境価値を含まないことは分かりました。FIT電気に環境価値がないならば、なぜわざわざ特別な呼び方まで作って、他と電力と区別しているのですか。

【回答2】 小売電気事業者がFIT電気を差別化して販売するためです。FIT電気を環境価値のある電力として販売することはできませんが、「特定のFIT発電所に由来する電力」として販売することが可能です。制度上も実務上も、FIT発電所による電力を区別して販売するため、「FIT電気」という呼称を使っているのです。

 ではここで、小売電気事業者がFIT発電所の電力を、どのように調達しているのか、制度を振り返ってみましょう。


▼FIT電気は再エネ特定卸供給で調達

 FIT制度がスタートした当初から2017年4月のFIT法改正までは、FIT発電所は小売電気事業者に直接、電力を売っていました。「小売買取」と呼ばれる形態です。2017年4月より前に締結した電力受給契約に基づいて、現在も小売電気事業者がFIT発電所から直接、電力を調達しているケースが残っています。

 2017年4月以降は、いわゆる「送配電買取」に変更されました。FIT発電所の電力はいったん一般送配電事業者が買い取り、日本卸電力取引所(JEPX)を通じて小売電気事業者に供給されています。

 しかし、送配電買取の下でも、「再生可能エネルギー電気特定卸供給」という制度によって、小売電気事業者は特定のFIT発電所に由来する電力の供給を受けることができます。

 再エネ特定卸供給も、FIT発電事業者が送配電事業者にFIT価格で売電する点は一般的な送配電買取と同じです。小売電気事業者は送配電事業者を通じて、そのFIT発電所由来の電力を市場価格で仕入れることができます。

 この際、FIT発電事業者は、特定のFIT発電所の電力を再エネ特定卸供給によって、送配電事業者が小売電気事業者に卸供給することを、小売電気事業者に対して承諾します。制度としては、発電事業者と小売電気事業者の間に、この承諾が存在するだけです。実務上は、小売電気事業者が発電事業者に対して発電量に応じたプレミアムを支払うことを合意するケースもあります。

 このように、小売電気事業者は、小売買取から送配電買取へと移行した現在でも、特定のFIT発電所に由来する電力を仕入れたうえで、他の電力とは区別したFIT電気として販売することが可能なのです。


【質問3】 FIT電気を販売する際に、再エネという環境価値をアピールする手段はないのでしょうか。

【回答3】 「非化石証書」を使うことでアピール可能です。小売電気事業者は、FIT電気の販売量に応じた必要量の非化石証書を取得して、FIT電気と組み合わせて販売すれば、一定の環境価値をアピールできます。

 非化石証書とは、電力が持つ「非化石」の価値、つまり化石燃料によるCO2排出量がゼロであるという価値を取引するための商品です。FIT発電所のほか、大型水力発電のような非FIT電源や原子力発電所で発電した電力に「非化石」の価値を認め、それを証書として取引できるようにしたのが非化石証書です。

 非化石証書は、再エネという観点からは2つのタイプに分かれます。1つは再エネ指定の証書で、 もう1つは、再エネ指定のない証書です。いずれの証書にも、「非化石」の価値がありますが、このままでは再エネ電源と原子力発電とを区別できません。原子力発電を含まず、再エネであるという点を差別化するため、再エネ指定の証書が用意されています。

 「電力の小売営業に関する指針」によると、FIT電気と再エネ指定の非化石証書を組み合わせて販売する場合には、小売電気事業者は「実質的に再生可能エネルギー電気○○%の調達を実現している」と表示することが可能です。

 ただし、「実質的に」という言葉を付けなければならないことに注意が必要です。

 【回答1】で説明したように、FIT制度は全需要家が負担する再エネ賦課金によって支えられ、その環境価値も全需要家に帰属することから、ストレートな「再エネ」という表示を小売電気事業者に認めるのは不適当と整理されています。現在のルールでは、必ず「実質的に」という文言が必要なのです。

 なお、非化石証書の使用は義務ではありませんので、CO2フリーの電力としての付加価値をアピールしないのであれば、非化石証書を併用することなく、FIT電気単体で販売することも可能になっています。


【質問4】 「FIT電気の販売時に非化石証書の使用を義務づけるべき」という意見もあるようです。なぜ、そのような意見があるのでしょうか。

【回答4】 背景の1つには、FIT電気には再エネとしての環境価値が付随しないと整理されているものの、再エネ価値が十分に分離できていないという問題意識があるように思います。

 「電力の小売営業に関する指針」は、FIT電気に環境価値が付随していないことに関して、誤解を招かないよう種々のルールを定めています。しかし、FIT電気を「再エネ発電事業者から調達した電気」と表現することは許容されていますし、調達先のFIT発電所の太陽光パネルや風車の写真をマーケティングに使うこともできます。「FIT電気」という言葉自体についても、再エネ環境価値と切り離した電力の呼び方としては不適切だという考え方もあります。

 FIT電気に環境価値がないにも関わらず、あたかも環境価値があるように見えるという指摘があるのです。この問題意識の裏返しとして、非化石証書なしでFIT電気を販売することは、国民負担によって支えられているFIT制度にフリーライドしているのではないかという疑念につながります。

 前述のように、小売電気事業者がFIT電気を仕入れる方法は、小売買取の時代の電力受給契約でFIT発電所から電力の供給を受けるケースと、現行の送配電買取の下で、再エネ特定卸供給により特定のFIT発電所に由来する電力の供給を受けるケースがあります。いずれの場合も、小売電気事業者に追加の負担はありません。

 前者の小売買取の場合、小売電気事業者は、いったんは高額なFIT価格で電力を仕入れることになりますが、再エネ賦課金を原資とする交付金を受領することで調達コストの増加分は相殺されます。

 後者の再エネ特定卸供給の場合、小売電気事業者が調達する電力の価格は、FIT価格とは無関係の市場価格相当額です。実務上は、小売電気事業者はFIT電気の調達に際して発電事業者にプレミアムを支払います。このプレミアムは発電事業者の追加収入であり、再エネ賦課金を減らす効果はありません。

 これに対して、FIT電気に非化石証書を組み合わせて販売すれば、その電力に再エネの環境価値があることが明確になります。また、非化石証書の取得のため小売電気事業者が支払った金額は再エネ賦課金の低減にあてられます。

 2012年のFIT制度の開始当時は、非化石証書の制度はありませんでした。2018年から非化石証書の取引が徐々に拡大し、2020年11月からは再エネ指定の非化石証書の取引も始まりました。FIT電気と再エネ指定の証書を組み合わせることで、FIT再エネ電源の環境価値を「取り戻して」販売することができるようになります。

 逆に、環境価値の「取り戻し」が制度的に可能になったにもかかわらず、それを利用せず「FIT電気」としてのみ販売することについては、風当たりは強くなると思います。


 【質問5】 FIT電気に非化石証書を組み合わせた場合の表示ルール変更が検討されています。「再エネ」か「実質再エネ」かで議論があるようですが、どのような変更が検討されているのでしょうか。

【回答5】 現在のルールでは、小売電気事業者が、FIT電気の販売量に合わせて再エネ指定の非化石証書を使用する場合には、「実質的に再生可能エネルギーによる電気を供給している」という注釈を付記することが認められています。

 この「実質再エネ」の表示の見直しが、電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合にて検討されています。見直しの理由として、以下の2点が指摘されています。

 第1に、FIT電気は再エネ発電所から調達したものなのに、ストレートな「再エネ」ではなく「実質再エネ」と表現することが、需要家・消費者に分かりにくいという理由があります。

 第2に、現在のルールでは、石炭火力発電所など化石燃料を使う電源から調達した電力や、卸電力取引所(JEPX)で調達した電力でも、再エネ指定の非化石証書を組み合わせれば「実質再エネ」という表示が可能です。

 現在のルールでは、「実質再エネ」と表示する際には、電源の種類は問わず、どんな電力でも同じ扱いとなります。 石炭火力発電所の電力が、FIT発電所の電力と同じ「実質再エネ」と表示されることは、環境への意識の高い需要家からすると違和感を覚えるところでしょう。

 このような指摘を背景に、FIT電気に再エネ指定の非化石証書を組み合わせた場合には、「実質再エネ」ではなく、ストレートな「再エネ」としての表示を認めることの是非が検討されています。


 【質問6】 仮にFIT電気に「再エネ」という表示が認められるようになった場合、再エネ賦課金による国民負担の抑制や、再エネ電源のさらなる導入につながるのでしょうか。

【回答6】 今後に向けては、非化石証書への影響と、「再エネ」という表示によって需要家からもたらされる新たなプレミアムの行方という2つの観点が考えられます。

 非化石証書を使用した「実質再エネ」の電力を取り扱う動きが一部の小売電気事業者で始まっています。非化石証書の使用に向けた機運が既に高まっているため、今回の制度変更が仮に実現したとしても、非化石証書の取引にどの程度追加のインパクトを与え得るのかは定かではありません。

 いずれにせよ、小売電気事業者が非化石証書を購入した代金は再エネ賦課金の低減に活用されますので、証書取引の活性化や約定価格の上昇に期待したいところです。FITやFIPによって再エネをさらに導入するためには国民負担の抑制がネック となっていますから、非化石証書を通じて再エネ賦課金の低減が実現すれば、再エネの導入促進余地もその分、拡大します。

 また、需要家の支払うプレミアムの行方も考える必要があります。前述のように、現在の送配電買取の下で小売電気事業者がFIT電気を調達する方法は再エネ特定卸供給であり、小売電気事業者がFIT発電事業者に対してプレミアムを支払うケースもあります 。FIT電気を「再エネ」と表示できるようになると、小売電気事業者が発電事業者にプレミアムを支払ってFIT電気を調達する動きが加速するかもしれません 。


▼プレミアムは再エネ導入量に影響するか

 小売事業者から発電事業者へのプレミアムについては、以下のことを指摘しておきます。

 第1に、既存のFIT発電所の事業者に支払われるプレミアムは、既に投資を終えた発電事業者の追加の収入となって終わります。賦課金の軽減には充てられませんので、賦課金の余力拡大による再エネ追加導入も期待できません。FIT制度初期の買取価格は非常に高額であり、その恩恵を受けている発電事業者に追加の収入機会を与えることの是非は、議論になる可能性があります。

 第2に、FIT価格が今後の入札によって定まる案件については、「再エネ特定卸供給に伴うプレミアム」というFITとは別の収入が得られることで、入札額を押し下げる効果があるかもしれません。入札額の低下は、再エネ賦課金による国民負担の抑制に直結します。FIT・FIPを支える再エネ賦課金の余力が増えれば、それだけ再エネの導入量を増やすことにもつながります。

 しかし、発電事業者としては、プレミアムがFIT並みに確度の高い収入でないと入札額を下げる要素としては心許ないでしょう。非化石証書も再エネ特定卸供給も制度として歴史が浅いため、今後の制度変更のリスクが気になります。

 プレミアムの支払いに関する契約についても、信用力の十分な小売電気事業者との間で長期間かつ価格変動リスクの限定された内容で合意していない限り、確度としては十分ではないでしょう。入札額低下の効果を期待するには、制度の継続性への官民共通の目線と、それに基づく取引の蓄積が必要です 。



川本 周(かわもと・あまね)
 西村あさひ法律事務所・弁護士
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