「何がクリスマスや! 何がチキンや、ケーキや! 自分らも日本人ならタコヤキを食わんかい! そりゃそりゃそりゃそりゃ!」
「きゃ~っ!」
「うわあああっ!?」
ジングルベルが流れる夕闇迫る商店街に、突如として人々の悲鳴と爆音が響き渡る。その中心にいるのはタコヤキ怪人キューバーン――ヒーロー学園の面々にとってはもはや宿敵とも呼べる存在だった。
「そこまでだ、キューバーン!」
「何やて!?」
頭上からかかった声に、キューバーンがはっと視線を上げる。
「これからディナーに向かうであろうカップルや、家に帰って家族でパーティーをしようという家族連れに、アツアツのタコヤキを無理矢理食べさせるとは……! なんて残酷な真似を!」
「そうだよっ! タコヤキも確かにおいしいけど、きょうはクリスマスイブなんだよ!? タコヤキなんか食べたらチキンやケーキを食べる前におなかがいっぱいになっちゃうじゃないか!」
それぞれに変身を遂げた村雨くんとぼく――ストライカーとライオンハートは、歩道橋の上からキューバーンにいい放った。
「だいたい、こっちにはこっちの予定というものがあるんだ! それを邪魔するんじゃない!」
「そうだそうだ!」
「な、何や、自分ら!? ワイはただ、タコヤキの権利向上と普及のためにやな――」
「TPOとやり方を選んでよ!」
「あんぎゃああ!?」
ぼくの繰り出した熱い炎がキューバーンの表面を黒く焦がした。さらにそこへ、村雨くんが放った高速の必殺シュートが無数に飛んでいく。
「にょほおおぉおぉ!? こ、焦げたあとは冷水でびちゃびちゃって……わ、ワイが売り物にならへんようになったらどないしてくれるんや!?」
「黙れ! おまえのような気持ちの悪いタコヤキを食う人間などいない!」
「ぐふぉっ……こ、こいつら、もう許さへんで……! 出てこい、手下怪人軍団!」
キューバーンが吸盤だらけの触手をうねうねさせ、手下怪人たちを呼び出した。商店街のアーケードの屋根の上や細い路地の奥から、丸っこい小さなタコヤキがわらわらと現れ、ぼくたちへと群がっていく。
「くっ……! こ、こいつら――」
「かっ、数が多い、多すぎるよっ!」
ちぎっては投げちぎっては投げ、近寄るそばから蹴り飛ばし、殴り飛ばし……ぼくと村雨くんは必死に戦った。でも、それでもタコヤキたちの数はいっこうに減ったように見えない。どうやらキューバーンが次から次に召喚しているみたいだった。
「歳末大安売りや! まだまだ行くで~!」
「うわ……っ!?」
ついにぼくたちがタコヤキ軍団にぐるりと取り囲まれたその時、紫がかったあざやかな光の刃が地を這うようにして飛んできた。
「烈風拳!」
「ぎゃわはっ!?」
ぼくたちを囲むタコヤキの壁の一角が崩れ、金髪の少年が割り込んできた。
「なかなか面白そうなことをやってるな。俺も交ぜてくれよ」
「ロックくん!」
「いいのか? 本来ならこれは俺たちの任務なんだが――」
「気にすんなよ。トレーニングにはちょうどいい」
「は!? 何や、自分!? 見たところヒーローでもないようやけど、あんま調子に乗っとると――」
「ダブル烈風拳!」
「ぎゃぼ~っ!」
キューバーンの言葉に耳を貸すことなく、ロックくんは高性能な飛び道具を連発した。あらためてこういうことをいうのもアレだけど、超人能力に覚醒してるわけでもないのにあんな芸当ができる格闘家のみんなは本当にすごい。
「ねえ、村雨くん」
ぼくは素早く村雨くんとアイコンタクトを取った。
「緊急出動でどうなることかと思ったけど、これなら――」
「ああ。ハプニングはあったが充分に修正可能だな。むしろ誘う手間が省けた」
ぼくたちがコソコソやっていると、ロックくんが怪訝そうな視線を向けてきた。
「おい、何をごちゃごちゃいってるんだ、あんたら?」
「な、なんでもないよ!」
「よし! ザコは俺たちが引き受ける!」
「ロックくんはキューバーンを! あいつを倒せば小さいタコヤキたちももう現れなくなるから!」
「判った」
ぼくの業火と村雨くんの激流が、ぼくらの目の前に立ちはだかっていたタコヤキ軍団の壁に大きな穴を開けた。その正面にいるのはキューバーン――それを見たロックくんは、アスファルトを蹴り、残像を引きずるほどの速さで走った。
「なっ、生意気な小僧やな! 返り討ちや!」
そのすべてが筋肉といっても過言じゃないキューバーンの触手が、ロックくんを捕らえようとしてにゅるっと伸びてきた。でも、ロックくんはそれをすべてかいくぐり、キューバーンの懐に飛び込んだ。
「レイジング……ストーム!!」
「ほんげあぁああああ~っ!?」
ゼロ距離で放たれたロックくんの超必殺技が、キューバーンを雑居ビルよりも高く吹き飛ばす。数秒後、「ザシャアッ!!」とかいう日常生活では絶対に耳にしないような効果音とともに、キューバーンが路上に叩きつけられた。
「う、うぐぐ……! く、食いモンを粗末にするヤツには罰が当たるんやで……」
「だからおまえのような気味の悪いタコヤキもどきを食べる人間なんかいないといっている!」
「げはっ! ま、また来年~!」
よろよろと起き上がってきたキューバーンに、村雨くんのとどめの一撃がクリーンヒット! キューバーンは夕暮れの星となって消えた。
「ふぅ……どうにか被害を最小限に食い止められたね」
タコヤキたちが姿を消すと、夕方の商店街は、すぐにまたクリスマスイブらしい明るい喧騒に満たされ、人々の楽しげなざわめきに包まれていった。
変身を解いた村雨くんは、軽くひと息ついてロックくんにいった。
「なあ、ちょっといいか?」
「は?」
「怪人退治を手伝ってもらった上に、さらにこんなことを頼むのも気が引けるんだが……報告書にあんたのサインが必要なんだ。学園まで来てもらえるか?」
「このあと何か用事があるんだったら申し訳ないんだけど……」
「用事っていってもな」
ロックくんは前髪をかき上げ、群青色の空を見上げて肩をすくめた。
「どうせテリーたちはきょうも帰りが遅いだろうし、家に戻ってメシの支度をするくらいしかやることないし……ま、別にいいぜ」
「ありがとう、ロック。それじゃ行こうか」
ロックくんの肩を叩いて村雨くんが歩き出す。ぼくはイケメンふたりの後ろを少し距離を取って歩きながら、セクレト経由でウサタローに連絡を入れた。
「ウサタロー、こっちはどうにか片づいたよ」
『おー、よくやったぜ、ふたりともー! で、あっちのほうはどうなんだー?』
「それも問題ないよ。ぼくたちがキューバーンと戦ってるところにたまたま現れて、任務を手伝ってくれたんだ。報告書にサインだけ欲しいって頼んで、これから学園に向かうところ」
『了解だぜー! 女子連中にはそう伝えておくからなー!』
「うん、頼むよ」
ウサタローとの小声の通信をすませたぼくは、ロックくんたちといっしょに学園へ向かった。
「――そういえばロックくんは、学園の寮に住んでるんだっけ?」
「ああ。管理人室にテリーたちといっしょに住まわせてもらってる」
「……ひょっとして、テリーさんたちがときどき寮の雨漏りの修理をしたり窓拭きをしたりしてるのと、何か関係があるのか?」
「そうみたいだな。管理人の仕事をする代わりに寮費を割り引いてもらってるっていってた」
「それで、空いてる時間は運送会社のアルバイトか……パワフルだなあ」
「俺も何かバイトでもするっていったんだけどな」
ロックくんはどこか気恥ずかしそうに鼻の頭をこすり、小さく笑った。
「――おまえは今は勉強と遊びに集中しろってさ、ユニゾンでいうんだぜ?」
「そうなんだ……」
きっとテリーさんたちは、自分がすごすことのできなかったごく当たり前の学校生活を、この異世界でならロックくんに経験させてあげられると知って、そういったんだと思う。そしてロックくんも、そんな“親心”を感じたからこそ、あえてその厚意に甘えてるんじゃないだろうか。
ぼくたちは街灯の明かりが作り出す自分の影を踏み踏み、学園の門をくぐった。
「――悪かったね、イブの日に急な出動で」
「いえ、任務ですから」
アンディ先生が用意してくれた報告書にサインをし、職員室を出たぼくは、軽く伸びをしながらふと思い出したように――我ながら自然な演技で――いった。
「そうだ、ぼく、教室に荷物置きっぱなしだった! ねえふたりとも、ちょっとつき合ってくれない?」
「おまえにしては珍しいな……」
「別に俺はかまわないぜ? どうせこのあとは寮の部屋に戻って夕食の準備をするだけだしな」
「よし、それじゃ行こう」
「そういやよく判らないんだが、冬休みの間に怪人が出現した場合はどうなるんだ? 生徒はみんな学校に来ないんだろう?」
「そりゃあもちろん容赦なく呼び出しが来て出動するんだよ」
「怪人たちにも年末年始ぐらいはゆっくり休んでほしいんだがな」
そういって苦笑する村雨くん。
「ふーん……ヒーローってのもたいへんなんだな」
「まあ仕方ないよ。ヒーローってそういうものだから」
ぼくたちは他愛ない話をしながら自分の教室に向かった。きょうは二学期の終業式で、特に幼児のない生徒たちはお昼でもう帰宅している。人気のない校内は森閑としていて、ぼくたちのきゅりきゅりっとした足音がやけに大きく響くような気がした。
「……それにしても暗いな。明かりをつけたほうがいいんじゃないか?」
「ああ、大丈夫大丈夫」
自分の教室の前まで来たぼくは、ロックくんの視線が天井に向けられていることを確認すると、素早く村雨くんとアイコンタクトを交わし、教室の引き戸を開けた。
と同時に、村雨くんが軽く突き飛ばすようにしてロックくんを教室に押し込む!
「お、おい!? いきなり何を――」
たたらを踏むようにしてロックくんが教室に入った瞬間、照明がついて、クラッカーの華やかな破裂音が鳴り響いた。
「メリー・クリスマス!」
「――――」
紙テープと紙吹雪にまみれてぽかんとしているロックくんは、周りにいる生徒たちをぼんやり見まわしたあと、何かいいたげな表情でぼくと村雨くんを振り返った。
「あ、あんたら――」
「いろいろといいたいことはあるだろうが、ま、文句はあとで聞く」
小さく咳払いをして、村雨くんはロックくんの肩を叩いた。
「まさかあんたら、最初から――」
「任務のお手伝いお疲れさま! はい、ロックくん!」
「お、おう」
森沢さんが飲み物の入ったグラスをロックくんに差し出す。そのせいで、またロックくんは口を閉じるはめになってしまった。
ぼくは村雨くんにグラスを渡し、ほっとしたように呟いた。
「どうにか間に合ったね」
「ああ。クラスメイトたちを巻き込もうという森沢の作戦がうまくいったな」
ぼくたちの教室の中は、いかにも手作りな感じでクリスマスにふさわしい飾りつけがほどこされていた。終業式のあと、クラスのみんなでロックくんに見つからないようにこっそりと準備していたのだ。もちろん小さいながらもツリーだって用意した。ドラマなんかでよく見るアメリカのご家庭のツリーはもっと立派だけど、こっちはセクレトをフル活用したレーザー光線による派手な電飾でカバーしている。
チキンなんかの料理はケータリングで間に合わせることになったけど、メインのケーキは森沢姉妹を中心とした女性陣による手作りだ。そのご相伴にあずかることができるというだけで、ソルダート五人衆の登米くんたちなんかはすでに感涙にむせんでいる。
「――ところで皆野たちは出動要請があったんだろ? 任務のほうは大丈夫だったのか?」
たがいに競い合うようにしてガツガツとポテトを食べていたW臼杵くんたちが、今頃になってそんなことを聞いてきた。そうだよ、みんなにこの会場の準備をお願いするために、ぼくと村雨くんだけで出動したんだよ!
「ああ、そっちは問題ない。怪人といっても例のタコヤキだったからな」
「キューバーンか……あいつ本当に懲りないな。あれだけ根性があるんだから、改心してヒーローになればいいのに……」
「悪側から正義側へシフトするのもヒーローものではひとつの定番だしな」
「……とにかく、タコヤキ退治は特に問題なくすんだ。といっても、ロックに手伝ってもらった結果だが」
「ロックくん、すごかったんだよ! ね?」
「え?」
急に話を振られたロックくんは、グラスを持ったままびくっと首をすくめた。たぶん、こういう場に慣れていないんだろう。せっかくきょうの主役のロックくんに話題を持っていけたので、ぼくはもうひと肌脱ぐことにした。
「格闘家の人たちの技はあれだよね、ぼくたちの能力と変わらないよね、もう! とにかくすごいんだよ」
「皆野、おまえ、さっきからすごいばっかりだぞ。具体的にはどうなんだよ?」
「いや、ホント、たとえばこう……ダブー! レップーケーン! てさ!」
「いや、違うぞ、皆野。確かそこはこう……んダブル! 烈風けぇん! だ」
「あんたら……俺をバカにしてんのか?」
気づくとロックくんが顔を赤くしてぷるぷる震えている。
「えっ? に、似てなかった!?」
「皆野のは似ていないが俺のは似ていただろう?」
「どっちも似てねえよ!」
「ならばここはロック氏にお手本をみせてもらいたいものですね」
いつも白衣を着ている弥富くんが、眼鏡のレンズを不自然にキラ~ンと輝かせ、ロックくんに迫った。
「あ、いや――」
「ちょっと男子~いい加減にするアルよ~」
困っているロックくんへ、熊代さんが助け舟を出してくれた。
「ロックくんの本物の烈風拳なら、今度わたしとの手合わせで嫌というほど見せてあげるアルよ。――ね、ロックくん?」
「ちょ、ちょっと待て、いつ手合わせすることになった!? お、俺はあんたと話すのもきょうが初めてのはずだぞ!?」
「ロックくんと手合わせしたいっていう女子はわたしだけじゃないアルね。シャンフェイもいってたアル。ロックくんはオジサン格闘家たちとばっかり手合わせしててズルいって」
「そ、そんなことで責められても……」
「おやおや、色男はつらいですな、ロック氏?」
「あんたらもいちいちキラ~ン☆ とかやめろよ! て、ていうか、この女を止めてくれよ!」
「おい、ロック・モテ男・ハワードが何かいってるぜ」
「勝手なミドルネームをつけんじゃねえ!」
「ウオオオオオオ! 何だか楽しそうだぜー!」
クラスメイトたちに囲まれ、照れたり怒ったり笑ったりしているロックくんを見て、ウサタローがすさまじいいきおいで野菜スティックをポリポリかじっている。
「イヒヒヒ……ちょっと荒療治だったけど、引っ込み思案のろっきゅんにはこのくらいゴーインにやったほうがいいっしょ」
「まあ、何だかんだで本人が楽しそうだからいいんじゃないかなあ?」
「ウチもイジってこよ~っと♪」
「し、試練だね、ロックくん……」
「皆野くんも村雨くんも、きょうはご苦労さま」
空になったぼくらのグラスに、森沢さんがジュースをそそいでくれる。
「いやあ、こまごました準備のほうがかえって気を遣うからたいへんだったと思うよ。ぼくたち、いつも通りに怪人と戦ってきただけだし……」
「特に森沢たちは、あのケーキを作ったわけだろう? 素直に尊敬するよ。俺たちにはああいう仕事は無理だからな」
ぼくたちの視線の先には巨大なクリスマスケーキが鎮座している。クラスのみんなで食べてもまだ余裕があるくらいの超特大サイズのケーキだ。マキシマさんがいっていたように、どこかのお店にオーダーするにはタイミングが遅すぎたので、手作りするしかなかったのである。
「……ところでチキンは? 配達の時間てそろそろじゃない?」
アメリカのクリスマスならターキーの丸焼きが出てくるところだけど、日本のクリスマスならやっぱりチキンだろう。でも、まだこの会場には、その肝心のチキンが届いていない。
「大丈夫じゃないかなあ。時間には間に合わせるっていうのがモットーらしいし」
森沢さんがそういい終わらないうちに、どたどたと大きな足音が廊下をやってくるのが聞こえてきた。それもひとりじゃない。
「ヘイ! ケンタ・フライドキッチンからのお届け物だぜ!」
がらっと引き戸が開き、大きな荷物をかかえたふたりのテリーさんと酉原くんが教室に入ってきた。
「て、テリー?」
名雲さんにいじられていたロックくんが、保護者の登場にほっとした表情を浮かべた。
「……あれ? ロック?」
「えっ? ここで合ってる――よな、届け先?」
「どういうことだ? 伝票には学園長の名前が書いてあるぜ?」
テリーさんたちは怪訝そうな顔で教室内を見回し、手もとの伝票に視線を落とした。
「ここで合ってる合ってる、問題ねーよ!」
酉原くんはテリーさんたちを教室に押し込み、机を並べて作った即席ダイニングテーブルの上にチキンを満載した箱をのすっと置いた。
「テリーさんたちもきょうの配達はこれで終わりだろ? ちょうどいーじゃねーか、ここで一杯やってけよ。――ま、酒は出ねーけどな」
「いや、確かにもう上がりだけどな」
「はい、テリーさん」
ぼくと森沢さんは、氷いっぱいのグラスにコーラをそそいでテリーさんたちに差し出すと、こそこそと小さな声でささやいた。
「――結局、ロックくんにとって一番のクリスマスって、テリーさんといっしょにすごすクリスマスなんじゃないんですか?」
「そうですよ。いくらロックくんだけ呼んでパーティーをしたって、テリーさんがいなきゃ締まらないと思います」
「だから酉原くんに頼んで、配達にかこつけておふたりにも来てもらっちゃいました」
それを聞いたテリーさんたちは顔を見合わせ、苦笑交じりに肩をすくめた。
「やれやれ……そういうことか」
「どうやらロックだけじゃなく、俺たちまでサプライズに引っかかっちまったらしいな」
「何いってるんだ、テリーさんたち」
村雨くんは溜息とともにかぶりを振り、
「――本当なら、こういうことはロックの保護者であるあんたたちがどうにかすべきことなんじゃないのか? それを、クリスマスのことがよく判らないからって理由で俺たちに丸投げって……よくよく考えたら無責任すぎるだろう?」
「いやー、悪い悪い。……けど、俺たちが渡した予算でよくこんなパーティーができたな?」
「何いってるんだ、あんなはした金じゃ無理無理の無理に決まってるだろー!」
「は、はした金って……」
「見ての通り、クラスのみんなに事情を説明して手伝ってもらったんです。ウチのクラス、親元を離れて寮で暮らしてる子が多いから、クリスマスパーティーやるなら参加したいってみんないってくれて……」
「そういう連中の協力とささやかなカンパで実現したパーティーだ。この手作り感が日本らしいクリスマスってところかな」
「なるほどねえ」
「おいっ、テリー!」
キャップをかぶった若いほうのテリーさんが感心していると、ロックくんが悲鳴じみた声をあげた。
「――呑気におしゃべりなんかしてないで、どっ、どうにかしてくれよ!」
気づけばロックくんは、名雲さんをはじめとした女子たちに囲まれ、男子たちの羨望のまなざしを浴びつつ、顔を赤くしたり青くしたりしている。それを見て他人ごとのように笑いながら、テリーさんはみんなにいった。
「そうだな……ロックをかまってくれるのはありがたいが、みんなも、俺たちが運んできたクリスマスチキン、冷めないうちに食べてくれよな!」
「さもないとトリハラにみんな食われちまうぜ!」
「おいおい、さすがの俺サマもそこまで空気が読めねー男じゃねーぜ! きょうくらいは自制するってーの。……けど、こいつにはそんな配慮なさそーだけどな」
「え?」
ふと見ると、酉原くんの隣ですごいいきおいでチキンを食べている少年がいる。
「あれ? 真吾くん……?」
「う、うまいッス! やっぱり日本のクリスマスはチキンで決まりッス!」
「ど、どうして真吾くんがここに?」
「みなさん聞いてくださいよ! 草薙さん、俺を置いてユキ先輩とデートに行っちゃったんスよ! ヒドくないっすか!?」
「……いや、草薙さんならそうするだろう? 前々からクリスマスにはユキさんとデートに行くといっていたはずだし……」
「でもでも、何だかんだで俺も連れてってくれてもよくないッスか!?」
「ありえないだろ。そのシチュエーションならさすがの俺でも遠慮するぞ」
「紅丸さんは紅丸さんで、女性格闘家のみなさんをエスコートして高級レストランに行くとかいってたし――つまり、俺だけハブられたッス!」
「は、はあ……」
「でも、そんな時、どこからかいい匂いがして……それをたどったらここへ来たッス! だから俺も仲間に入れてほしいッス!」
「そ、そういうことなら……まあ、いいけど」
さすがにこんな境遇の真吾くんから「じゃあ参加費代わりにカンパね♡」とはいえない。登米くんたちとは別の意味で泣きながらチキンを食べる真吾くんの肩を叩き、ぼくは静かにうなずいた。
「――あら、楽しそうにやってるじゃない」
「兄さんも来たんだって?」
「わたしたちもちょっとお邪魔させてもらうわね」
今度は不知火先生とアンディ先生が、綺麗なオードブルが盛られた大皿をかかえて登場した。きっとこれは料理が得意だという不知火先生の手作りに違いない。
「おい、アンディ」
たちまち女子生徒たちに囲まれたアンディ先生に歩み寄り、テリーさんがいった。
「――さてはおまえもこの件に一枚噛んでたな?」
「ぼくは臨時とはいえここの教師だからね。教室の使用許可申請があれば、その使用目的についての説明だって受けるさ。ただ、それを兄さんに伝えるかどうかはまた別の話さ」
「こいつ……」
「でもよかっただろう、結果的に?」
「……ああ」
「あいつが同年代の子供たちとあんなふうに騒いでるところ、初めて見せてもらったよ」
ロックくんを見つめ、テリボガ35が感慨深げに呟く。
「保護者ってのはいろいろと大変だよな。よーく判るぜ」
そういいながら教室に入ってきたのはマキシマさんだった。その隣では、サンタっぽいワンピース姿のクーラちゃんが、バケツ入りのアイスクリームをぺとぺとと食べている。
「約束通り、お相伴にあずかりにきたぜ。それと、こいつは俺からの差し入れだ」
と、クーラーボックスの中からアイスクリームケーキを取り出すマキシマさん。聞けばマキシマさんのヒミツのアジトには、こういう甘いものが大量に常備されているらしい。今回、森沢さんたちがこんなに大きなケーキを手作りすることになって、急遽その材料を調達しなきゃならないとなった時、業者を紹介してくれたのもマキシマさんだった。製菓業界にコネのあるサイボーグテロリストなんて属性盛りすぎだけど、とにかくマキシマさんがいてくれて本当に助かった。
「――あれ? そういえばK’さんは?」
「K’は寝てるー」
「ウチの相棒はこういうところは苦手だし、空気も読まないからな。ジャーキーだけあたえとけば問題ない」
「そ、そういうもんですか……」
「つか、けーくんだって育ち盛りの青少年なのに、そんなんじゃ栄養失調で倒れるんじゃね、そのうち?」
「いや、改造人間だから大丈夫なんじゃないか? 実際、この子も気づくとアイスかシャーベットしか食べてない」
「むしろわたしには、そんなに甘いものばっかり食べてるのに太らないってことのほうが衝撃だよ……」
「も、森沢さん、きょうはそういうことは忘れて……ほっ、ほら、そろそろケーキを切ったら?」
ネガティブな方向に行きかけた森沢さんを引き留め、ぼくたちはケーキを切る準備に取りかかった。クラスメイトの大半にロックくんや真吾くん、それにテリーさんたちもいるから、お皿とフォークを用意するだけでもなかなかの手間だ。
よくよく考えてみると、酉原くんとウサタローを除けば、ぼくたちはほとんど飲んだり食べたりしないで給仕役に徹している。いろいろと気を遣うし、肉体的にも疲れるけど、でも、楽しそうなみんなの笑顔――とりわけロックくんとテリーさんたちの表情を見ていると、がんばってよかったなって思う。
もう年末だけど、お正月にもこんなふうにみんなで盛り上がれたら楽しいだろうな。
――おしまい