さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00044/?n_cid=nbpnxt_mled_nen

 2021年は正月早々、新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言の話題で持ち切りだが、電力業界でも異常な事態が起きている。卸電力価格が過去にないレベルで急騰しているのだ。背景にはLNG(液化天然ガス)など火力発電の燃料供給に関する制約がある。

 昨年12月下旬から価格が高騰する状態が続いていた(「年明けも続く? 長引く電力市場の異様な高騰」)。年が明けてからも連日の最高値更新が続いている。

 1月6日受け渡しの日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場(前日市場)は、全国24時間平均(システムプライス)が79.38円/kWhを記録。さらに、1月7日受け渡しは89.82円/kWhと最高値を更新した(図1)。朝6時から23時ごろまで100円/kWhに張り付いている(図2)。

 これまでにもJEPXのスポット価格が高騰することはあったが、今回の水準は明らかにこれまでとはレベルが違う。JEPX調達比率が高い新電力にとって、事業 の存続に関わる死活問題である。しかも、詳細は後述するが、この状況は2月に入るまで続く可能性がある。

 価格高騰は需給のひっ迫によって起きている。 既に、関西電力送配電は12月27日に2回、東京電力パワーグリッドは1月3~4日にかけて3回、電力広域的運営推進機関に対して緊急融通の指示を要請している。

 なぜこんな事態になったのか。要因の1つは、寒波による冷え込みである。確かに12月下旬から年明けにかけて平年並みの気温を下回る日が多かった。

 しかし、過去に例がないほどの気温低下というわけでもなく、電力需要が過去最高水準まで高まったということでもない。需要側の要因だけで価格高騰を説明するには無理がありそうだ。


◆JEPXスポット価格高騰の背景に「燃料制約」

 今回の需給逼迫の背景には、燃料供給の制約があったと考えられる。北東アジアにおけるLNGスポット価格指標の「JKM(Japan Korea Marker)」は、11月中旬に100万BTU(英国熱量単位)当たり6ドル前半まで下落していた。

 だが、その後は上昇に転じ、12月15日に12.4ドルと1カ月あまりで約2倍になった。直近では、20ドル近い取引も出てきている。11月と比べると3倍近くの価格だ。

 北東アジアのLNGスポット価格上昇の原因は、日本を含む北東アジア地域の気温低下だけではない。韓国は微粉塵排出量削減政策の一環として冬期に60基ある石炭発電所を最大16基休止しており、 LNG需要が増加している。さらに、中国のLNG輸入量の急増がある。

 12月の中国のLNG輸入量は前月比40%増の900万トン超となった。習近平政権が推進するゼロエミッション政策の一環である「減煤」(石炭消費量総量規制)が1つの理由だが、別の理由として、外交関係の悪化でオーストラリア産の石炭輸入を規制しているからとも噂されている。また、こうした需要増の局面では、船舶費用が高騰し、さらにスポット価格を押し上げる。

 そこに、LNG供給側の制約が追い打ちをかけている。

 世界最大のLNG供給国であるカタールでは、11月頃から計画的なメンテナンスに加えて、突発的なコンプレッサーの問題で複数のトレインの供給が止まり、輸出量が減少している。

 また、近年増加傾向にあった米国からのLNG輸入は、パナマ運河の通過手続きがパンデミックによる人員不足で停滞し、船舶の渋滞が続いている 。既に太平洋に出るのを諦め、大西洋に行き先を変更する船まで現れている。

 日本は世界で初めてLNG技術を商用化し、輸入量は長年にわたり断トツで世界一だった。しかし、韓国や中国、それから欧州や南米といった新たなLNG需要国が誕生し、相対的なバーゲニングパワーは徐々に落ちつつあった。

 特に中国の輸入量の伸びはめざましく、単月では2019年11月、2020年5、6、8、11、12月に日本の輸入量を上回った。この趨勢では2021年にも世界一のLNG輸入国の座は中国に譲ることになるだろう。

 また、2011年の東日本大震災以降、原子力発電所の停止に伴う影響でスポット取引でのLNG供給量が増えたことも、急な事態での船の奪い合いリスクを増大させている。脱炭素化が世界的なトレンドとなる中、火力発電の中ではCO2排出量が相対的に低いLNG火力の需要は増加するだろう。

 今後ますます日中韓を中心としたLNGの獲得競争は激しくなり、 他国の事情に振り回されることが多くなるだろう。今回のようなLNG供給の制約は、これからもしばしば起きるかも知れない。


◆2018年にも類似の事態は起きていた

 想定外の様々な要因が重なって起きたLNG需給の制約により、大手電力各社やJERAはLNGの在庫減少によってタンク内の液面が運用下限(あるいは物理的下限)を下回ることがないよう、LNG火力発電所の出力を絞って運転している(出力低下)。

 大手電力の発電電力量が減る中、自社小売部門への供給を優先し卸電力市場への供出量が減少したことで、JEPX価格が高騰したと推測できる。いわゆる「燃料制約」である。

 通常の燃料調達スキームでは、追加のLNGを確保できるまでには、早くても1〜2ヵ月かかる。つまり、LNG不足が解消されるのは2月頃だ。定期点検などで現在停止している発電設備を、なんとか早期に稼働させるとしても、JEPXスポット価格の高騰の解消にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 類似の事態は2018年の2月と7月にも起きた。2018年7月25日には西日本で100円/kWhを記録している。

 その後の電力・ガス取引監視等委員会の制度設計専門会合で、燃料制約については議論がなされてきた。

 大手電力各社が市場支配力を不当に行使しないよう、原則として余剰電源は全量を卸電力市場に供出し、燃料制約が発生した場合でもできる限り市場価格に影響が出ないようにピーク需要時の調整を控える、出力低下の情報開示を行うといった配慮を行うように求めてきた(「本当に「燃料制約」は起きていたのか」、「発電所の稼働状況を情報公開せよ」)。


◆燃料制約による出力抑制は公には説明されていない

 エネルギー市場情報を提供するRIM 情報開発によると、2020年末にかけてのLNG在庫不足を懸念して、JERAの袖ケ浦火力発電所3基と姉崎火力の4基、関西電力の相生火力などで、12月以降に事実上の燃料制約による出力調整を行っていたという。

 しかし、JEPXの「発電情報公開システム(HJKS)」によれば、12月1日以降のLNG火力発電所の「出力低下」による停止情報78件のうち、「燃料制約」を事由に挙げているのは九州電力の大分共同1号のみである。資源エネルギー庁や広域機関からも、特に燃料制約に関する情報は提供されていない。

 2020年3月31日に行われた第46回制度設計専門会合では、出力低下の理由について、「燃料制約といった特定個社の機密情報が開示された場合、燃料価格の高騰や調達先からの燃料の売り惜しみ等が起こり、需要家の利益の毀損に繋がる恐れもあるため、現行のHJKSの計画停止・計画外停止と同様に事業者の任意による開示としてはどうか」との事務局からの提案がなされ、議事録を見る限り特に参加の委員から異議はでていない。

 2020年10月から運用されているHJKSの入力ガイドラインでも、停止原因の入力は任意となっている(「HJKSの運用について」https://hjks.jepx.or.jp/hjks/pdf/hjks_manual_2020_09.pdf)。


◆発販分離や燃料制約情報の開示が必要だ

 つまり、現行ルール下で、予想外の燃料制約が本当に発生してしまった場合、個別企業の合理的な行動の結果、直接の理由が公には不明な状態でJEPX価格が急騰してしまうという事態を避けるのは難しい。

 今回のような価格スパイクを、市場が需給を正しく反映した結果ととらえるのか、スパイクの程度が不当に大きいととらえるのか、情報の非対称性をどのように問題視するのかについては今後の議論となるだろう。

 需給リスクが凝縮されやすいJEPXに依存した事業を行っている新電力は、せっかく新規参入したのにも関わらず、理由も分からず退場させられてしまう(おまけに2024年度には容量市場拠出金の支払いも始まる)のだとすれば不憫とも思える。

 だが、それは現在の電力システム改革が、発電と小売りは一体のままの大手電力と、東電と中部電の燃料・火力発電事業を統合した巨大発電事業者JERAと、十分な自主電源を持たない新電力が競うというアンバランスな設計になっているからとも言える。

 市場による電力システムの統合という思想に則るのであれば、「発販分離」や「燃料制約情報の開示」なども含めた抜本的な見直しが必要なのではないだろうか。それとも、日本経済団体連合会の中西宏明会長が2020年11月に言及したような「業界再編を含めた電力産業の構造改革」が行われるのだろうか。
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