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電力不足が深刻さを増している。最大の要因であるLNG(液化天然ガス)の不足はなぜ起きたのか。その背景には、電力自由化や再エネの拡大といった電力システムの変化がある。発電事業者が適正なLNG調達量を判断しにくくなっていたのだ。
2020年12月末に顕在化した電力不足は新年に入ってから深刻さを増し、いつ停電が起きてもおかしくない綱渡りの状況が続いている。
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今回の電力のひっ迫には大きく2つの要因がある。本誌で既報の通り、寒波による冷え込みで電力需要が増加したこと。加えて、火力発電燃料のLNGの不足である。
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確かに寒波は厳しいもので、電力需要は全国で増加している。ただ、ここまでの需給ひっ迫とJEPX価格の高騰を招いた最大の要因はLNGの不足の方だ。中国と韓国によるLNG輸入量の増加、産ガス国での生産設備トラブル、新型コロナ影響によるパナマ運河の通関手続き遅延などが絡み合っている。
ここで一つ、疑問が湧く。いくらLNGの需給がタイトになっているとはいえ、冬の電力需要を正確に予測し備えていれば、ここまで不足することはなかったはず。何が起きていたのだろうか。
◆「JERAのLNG調達量が少なかった説」の真偽
国内エネルギー企業で圧倒的な事業規模を誇るのが、東京電力グループと中部電力の燃料・火力部門を統合したJERA(東京都中央区)だ。LNGの年間取扱量は世界最大規模の約3500万トン。もちろん国内では圧倒的な大手である。さらに国内の火力発電所の約半分をJERAが保有している。
LNGの調達量を原因とする電力不足となると、そのJERAの動向が気になるのは当然のこと。しかも、ここのところ「JERAの調達量が少なかったからLNGが不足した」「JERAが在庫薄の状況で冬に突入したのが原因だ」といった話が聞こえてくることがある。
ただ、この読み筋は必ずしも正解とは言えない。様々な要素が絡み合っているが、突き詰めていくと電力システム改革によって、JERAを筆頭とした発電事業者が電力需要を把握できなくなっていたことにたどり着く。LNGと電力の需給状況を時系列で振り返ってみよう。
◆新型コロナの影響に揺れた2020年のLNG市場
LNGを取り巻く環境は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてきた。世界的な経済活動の低迷で原油価格が暴落。北東アジアにおけるLNGスポット価格指標の「JKM(Japan Korea Marker)」も低迷した。2020年4月末には、史上最安値の100万BTU(英国熱量単位)当たり1.825ドルを記録した。
LNGマーケットに詳しい関係者は、コロナの影響をこう説明する。「例年であれば韓国、中国勢が4~5月から冬の手当てを始める。だが、2020年はコロナの影響でLNGを買わなかった。このため産ガス国は需要の動向に合わせてLNGの生産量を落としていた」。
夏が終わった頃には、LNG輸入国の中国や台湾で経済が復調し始め、エネルギーへの需要が戻ってきた。「10月終わり頃には中国の爆買いが始まり、1~2月到着分のLNGの値段はどんどん上がっていった」(関係者)。
11月中旬に100万BTU当たり6ドル台前半だったLNGのスポット価格は、12月15日には同12.4ドル、さらに、今では同20~30ドルでの取引となっている。価格が下落していた2020年春と比較すると10倍、11月に比べても5倍近い水準だ。
ただ、LNG価格が高騰して調達の難易度が高まっても、LNGが全く手に入らないわけではない。ある関係者は、「12月中旬までJERAが確保していたLNGは適正量だった。これは今でもそう考えている。LNG不足が顕在化したのは12月の休暇時期に入った頃だった」と明かす。
他方、「JERAが12月上旬にLNGを転売していた」という話を聞く機会も少なくない。JERAはトレーディング子会社JERA Global Marketsなどを活用して、LNGをトレードすることで利益を最大化している。「12月上旬は通常通りLNGのトレードを実施していた。国内向けの調達量を減らすための転売ではない」(JERA関係者)という。
◆電力自由化で見えなくなった「エリア需要」
そのJERAが異変に気づいたきっかけは、東京電力エナジーパートナー(EP)の電力需要予測が12月下旬に急激に大きくなったことだったという。
JERAが発電した電力の大半は、東京電力グループと中部電力の小売部門である東電EPと中部電力ミライズに供給している。このためJERAは小売2社の需要予測に基づいて、LNG調達量を決めて発電する。
この際、東電EPの電力調達量が自社の需要よりも多く、余剰が出た場合には、東電EPがJEPXに限界費用で供出(玉出し)している。これは電力市場の活性化のために国が定めた「自主的取組」というルールに基づくものだ(中部電への余剰分は、中部電ミライズではなくJERAが市場に供出している)。
「通常であれば、東電EPがJEPXに売り札を出しても約定せずに残るものがある。ところが12月半ば頃から玉出しした分はすべて約定していた。既に他の発電事業者がLNG不足から発電所の出力を落とし発電量を絞り始めていたためだ。こうした情報が得られていないまま、東電EPの需要を大きく超えた、とてつもない量の電力が限界費用で市場に流れていた」(関係者)。
既に電力需給はタイトになってきていたが、東電EPや中部電ミライズからの情報をよりどころにしていたJERAには電力需給の変化が伝わっていなかった。
「12月下旬になって東電EPが予測した需要量が急に大きくなったので、LNGの調達状況と照らし合わせたところ、厳しい状況だと分かった。東電EPの需要が、東京エリア全体の需要と乖離していたことを、この時、はっきり認識した」(JERA関係者)という。
電力自由化を経て、東電EPの東京エリアでのシェアは大幅に低下した。東電EPの需要予測だけでは、東京エリアの状況を把握するのが難しくなっている。これまでの大手電力の小売部門の情報を基に発電事業者が燃料調達量や発電量を決める方法に、限界がきたということなのだろう。
JERA関係者は、こう指摘する。「東電EPが市場に流した電力がすべて売れているという状況を一般送配電事業者である東京電力パワーグリッド(PG)や広域機関が把握し、その情報が我々発電事業者に共有されるべきだった。東電EPの需給計画に変更がなかったため、一時的なものだと解釈していたが、それが結果としてJERAのLNG在庫を減らすことになってしまった。今後はJERAが一般送配電事業者や広域機関と接点を持ってやっていく必要がある」。
各エリアの安定供給を司るのは、東京電力パワーグリッド(PG)をはじめとする各エリアの一般送配電事業者であり、日本の電力システム全体を見ているのは広域機関だ。送配電事業者と広域機関には、発電事業者と小売事業者の情報が集約されている。
かつて大手電力の小売部門がエリア需要の大半を押さえていた時代は、発電部門(発電事業者)は小売部門の情報だけで全体を把握することができた。だが、今はそうではない。しかも小売部門も、JEPXを含めて様々な調達手段を検討するようになっている。従前と変わらず、発電事業者が電力供給先の小売事業者としかコミュニケーションがない体制では、適正な需要量を把握できず、過不足ない燃料調達を進めるのが難しくなっている。
◆JEPXは価格シグナルを出せなかった
また、この構造はJEPXの価格シグナル機能にも影響を及ぼしている。価格シグナルがJEPXに現れていれば、新電力は電力不足が露呈する前に何らかのヘッジ手段を講じることができただろう。
しかし、LNG価格は高くなり電力需給もタイトになっていたにも関わらず、東電EPからかなり多くの余剰が限界費用でJEPXに供出していたことで、JEPX価格はあまり高くならなかった。JEPXを利用する新電力などが、価格の推移から需給のひっ迫具合を察知することも難しかった。
実際、12月の電力業界では、「12月半ばは気温が低下してJEPX価格が少し上がったが、正月休みは通常通りの需要で市場価格も下がるだろう」という見方が新電力を含めて、大勢を占めていたように思う。
本来、JEPXは発電事業者と小売事業者の間に存在し、需給を価格シグナルとして発現するのが役割だ。今回の電力不足によって、JEPXが本来の機能を果たせていなかったことも露呈したわけだ。
自主的取組という制度措置が必要なのは、発電事業は大手電力が約8割のシェアをしめていることに加え、JERAを除く大手電力各社は発電部門と小売部門が一体化しているからだ。電力自由化によって卸電力市場による価格シグナルや需給調整機能を活用するためには、発電部門と小売部門を分割し(発販分離)、発電事業者と小売事業者の間を卸電力市場がつなぐ形にしていくべきだろう。
◆再エネの増加もLNG調達の判断を難しくしている
では、JERA以外の大手電力会社は、なぜLNG不足に起因する電力不足にあえいでいるのだろうか。複数の関係者が、「西日本の大手電力はLNG調達量を少なめにしていた」と明かす。
LNG価格が高騰する中で、他の大手電力は、バイイングパワーでJERAや中国勢に劣後し、思うようにLNGを調達できなかった可能性がある。また、再エネの増加によって火力発電による発電量の変動が大きくなり、最適なLNG調達量を見定められなかった事業者もいただろう。
例えば九州電力の場合、2020年3月期中間決算において余剰LNGの転売に伴う損失を約130億円計上している。九電は太陽光による発電量が増加し、電力需要が高まる夏であっても昼間はかなりの部分の発電を太陽光で賄う状況となっている。
LNGは契約によって引取量が定められていることから、ベース電源である石炭火力は稼働を落とし、その分もLNG火力を稼働させてLNGを消費してきた。それでもLNGが余りに余って、その対処に苦慮する状況だった。
「再エネ導入量が非常に多い九州エリアにおいては、冬とはいえLNGを大量に調達する判断は難しかっただろう。LNGの調達量が少なかったと責めるのは酷だ」(関係者)。再エネ導入量の急増という変化もまた、LNGの調達判断を難しくしている。
こうした各社の事情によりLNGは不足し、12月からLNG火力発電所の出力を徐々に低下させていたとみられる。JERAは他社が出力を絞った分もカバーする形でLNG火力を稼働させ、徐々にLNG調達量と電力需要のバランスを崩していったのだろう。
JERAはLNGの需給がタイトになってからも、11月、12月で100万トン近くのLNGを調達している模様だ。1月到着分もこれに匹敵する量を調達している。規模が大きく、海外での燃料トレーディング事業を手がけてきたJERAだからこそ、これだけの量をスポットで追加調達できたと言えるだろう。
だが、「全電力会社からJERAに緊急要請が来ている状況。他社がLNGを思うように調達できていないため、どれだけ追加調達して発電しても全て吸い込まれてしまう。新設の常陸那珂火力発電所を徹夜で準備して1月8日に前倒しで営業運転を開始した。だが、それも他社の不足のカバーで一瞬でなくなった」(関係者)。
◆「もし12月上旬に状況が分かっていたら・・」
「12月上旬に状況が分かっていたら、LNG調達をもっとうまくやれたのに」。ある大手電力幹部は、こうつぶやく。この言葉は電力市場における情報公開の重要性を示唆している。
燃料不足により発電所の出力を低下させることを「燃料制約」という。問題は、燃料制約に関する情報が、ごくごく一部しか公開されないことだ。
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燃料制約に関する情報公開については、2018年に起きた燃料制約によるJEPX価格の高騰後に電力・ガス取引等監視委員会で議論されてきた。だが、依然として燃料制約情報の開示は必須にはなっていない。今回の件を教訓に、市場が正しく機能するよう情報開示を進める必要があるだろう。
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ある海外エネルギー会社関係者は、「正直なところ今回のJEPXの高騰は、海外市場を見ている立場からすると驚きでしかない」と言う。
さらに、「海外ではLNGタンクの在庫状況は情報公開するのが当たり前。日本では、灯油やガソリンの在庫情報は石油連盟が毎週公開しているものの、LNGの情報は公開されていない。日本の電力市場の情報公開は非常に消極的なものだ」と指摘する。
◆北東アジアでLNG枯渇、電力不足の解消は少なくとも1月末
JERAを含めて大手電力各社はLNG調達に奔走している。「12月末頃からJERAや関西電力が血眼でLNGを買いに走っていた」(関係者)。
「1月に入ってからは、1月中にデリバリーしてもらえるなら価格がいくらでも買うと、複数の大手電力が言っている」(関係者)という。LNGのスポット調達は、購入からデリバリーまでに短くても30日程度はかかる。12月末に追加しても、それが日本に到着するのは1月末から2月の計算だ。
LNG取引に詳しい関係者は、「3月到着分なら今でも買えるし、2月末なら調達可能だ。だが、今から1月末にはデリバリーできない。12月頭に手当してないといけなかった」と説明する。
強烈な寒波に襲われたのは日本だけではない。中国でも電力不足は顕在化している。北東アジアでのLNG争奪戦は熾烈を極めており、北東アジアでLNGが枯渇している状況だ。
既にLNGスポット価格は高騰しており、100万BTU当たり20~30ドルになっていると聞く。一部報道によれば、同35ドルで調達した事業者もいるようだ。あるエネルギー会社幹部は「LNG価格は過去最高を更新するだろう」と予測する。
しかも、いくらLNGを買い続けても、LNGタンクの運用条件の関係で、ひとたび不足した状況に陥ると解消するには時間がかかる。
「発電用のLNGはタンクが3日ほどで空になる。特に東京湾のタンクは需要に対してタイトな状況なので、配船をうまく調整してタンクの回転数を上げるかの勝負。常に自転車操業しているので、いったん不足してしまうと余裕を持った運用に戻すのは容易ではない」(JERA関係者)。
LNG不足の解消には、寒さが和らいで電力需要が減少し、LNGの消費量が減る。もしくは、電力需要以上にLNG調達量が増えるかのどちらかしかない。
このため、複数の電力関係者が「LNG不足は少なくとも1月末まで続く可能性が高い」と厳しい予測をしている。もしくは、寒さが和らぎ、真冬が過ぎ去る時までかかるだろう。
ある新電力関係者は、「早く到来した冬は早く終わると言われている。早く気温が上がることを願っている」と言う。
電力需要のひっ迫による停電リスクの高まりと、JEPXの価格の高騰による小売事業者の経営圧迫が、1日も早く解消することを願うばかりだ。
◆今回の危機は発電設備の不足ではなく燃料の不足
電力不足が顕在化してから、「原子力発電所が稼働していないからだ」「再生可能エネルギーが増えすぎた」「石炭火力のフェードアウトなどと言っているからだ」といった意見が増えてきている。
だが、今回の危機の原因はあくまで燃料の不足。発電設備(kW)の議論ではなく、燃料(kWh)の安定性について考えなくてはいけない。
電力システム改革とともに再エネが増え、自由化が徐々に進んでいる。この過程で、国は安定供給を担保するために供給力の議論をしてきた。容量市場や需給調整市場の導入は、いずれも「kW」を維持するためのものだ。
だが、今回のように発電設備は動かせる状況にあっても、燃料不足で動かないのでは意味がない。
ある大手エネルギー幹部は、「国や一般送配電事業者の関心が発電設備(kW)の維持に偏重する中、燃料の供給安定性の検討が必要だとかねて国に具申してきた。今年1月からLNG確保についての勉強会をすることになったところだった」と明かす。
日本の電力システム改革は道半ば。そして、世界は脱炭素社会へ向かって動き出している。今回の電力危機を経て、燃料の問題、ひいては市場設計の不備を整え、エネルギー市場がより良い市場へ進化することを望んでやまない。