https://www.asahi.com/articles/ASP1M6R00NDQULBJ00G.html
東京電力福島第一原発事故から3月で10年となる。福島県では県民健康調査で被曝による甲状腺がんの検査が続いているが、検査が「過剰診断になっている」という意見もある。「過剰診断」とはどういうものなのか。がん疫学が専門の祖父江友孝・大阪大教授に聞いた。
――これまでに甲状腺がんまたはがんの疑いと診断された人は240人以上いる。
「症状が出てから診断される通常の甲状腺がんの罹患(りかん)率と比べて、10~30倍ぐらい高いというのはその通りだ。ただ、なぜ高いのかはきちんと説明されていないが、今のところ、放射線による増加とは考えにくいとされている。そうであるなら、『過剰診断』と説明するのが一番合理的だ」
◆検診「やればやるほどいいわけでない」
――過剰診断とは
「がんかどうかのボーダーラインをがんと診断するという意味ではない。がんだけど寿命を超えて発症するもの、すなわち、ものすごくゆっくり進展するために、生きている間には症状が出ないがんまで検診で見つけるのが過剰診断だ」
――一般的ながん検診と甲状腺検査は違うのか。
「過剰診断は一般的ながん検診でも十分ありえる。前立腺特有のたんぱく質の量を調べる前立腺がんのPSA検査、乳がんのマンモグラフィー検査、腎臓がんの超音波検査などは海外で過剰診断と指摘されている。死亡が減っていないのに患者ばかり増えている」
「甲状腺検査が特殊なわけでは決してない。進行するがんなので、どんながんにも過剰診断はあり、普通は起きる。過剰診断が起きないほうが特殊と思ってもいい」
――診断された個人が過剰診断かどうかはわからない。
「がんを放置して観察してみて、そのまま他の病気で亡くなれば、それは過剰診断と言えるが、放置することに耐えられる人がいるかどうか。医師にとっても患者にとってもがんを切るほうが選ばれやすい」
――成人では、超低リスクの甲状腺がんは経過観察にする動きもあるが、小児ではエビデンス(証拠)がない。
「小児でわかっているのは、しこりが出たり腫れて痛かったりなど、症状から見つかってくる甲状腺がんはそんなに多くないということ。経過観察でもいいという可能性は非常に高い。小児のほうがむしろ、途中でがんの成長が止まるという可能性が高い。一時的に成長する時期はあるが、経過観察すると、成長が鈍化する報告がある。小児がんの一つの神経芽細胞腫でも一部では自然退縮することが知られている」
――今後の福島での甲状腺検査の方向性は。
「将来的にそのままにしても個人に悪い影響を与えないがんまで見つけて、検査が過剰診断となっている可能性は高い。いずれは検査を縮小する方向が望まれるが、まだそうなっていない。まずは学校検査をやめ、検査を受けたい人が受けられる仕組みを維持すればいいのではないか」
――蓄積されたデータをどう活用するのか。
「まずは内部被曝(ひばく)線量を個人ベースで推定する。そして、福島県全体の小児の甲状腺がん罹患状況を全国がん登録の仕組みを利用して把握する。両者をくっつけて、線量あたりのがんの罹患率のリスク比を求めるのは必須だ」
「検診は、やればやるほどいいわけではなく、過剰診断につながったり、統計学的な評価が難しくなったりするなど不利益になることがある。安心を求める住民に対し、行政は検診をする。検診が住民対策になってしまうことはどこでも起きうるし、それは防ぎがたい側面もある」(聞き手・後藤一也)
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そぶえ・ともたか 1983年、大阪大医学部卒。国立がん研究センターがん対策情報センターがん統計研究部長などを経て2012年から現職。17年の第8回甲状腺検査評価部会から部会員