https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01567/00012/?P=2
「震度6強を観測した地区で不適格な擁壁に被害を確認できないなんて、これまでの経験では考えられない」。地盤品質判定士の資格を持つ復建技術コンサルタント(仙台市)の佐藤真吾技師長は、2021年2月13日に福島県沖で発生したマグニチュード(M)7.3の地震で、震度6強を観測した福島県相馬市内を見て回った印象をこう話す。
東日本大震災や熊本地震など最大震度が6強クラスの過去の地震では、震度6前後の地区で盛り土地盤の不適格な擁壁が著しく損傷し、住宅の不同沈下を招く深刻な被害が多数発生した。佐藤技師長はそれらの被害調査と復旧方法の検討を数多く手掛けてきた。
佐藤技師長は今回の地震でもこうした被害を懸念して、相馬市内の住宅地を地震発生の翌日、見て回った。高台にある尾浜地区や粟津地区、柏崎地区などには古い石積みや増し積み、建築ブロックなどの不適格擁壁が多数存在していた。
ところが、佐藤技師長が回った範囲では、擁壁に損傷や変状だけでなく、以前から生じていたと思われる亀裂の拡大も確認できなかったという。佐藤技師長は「震度6強の地震でも擁壁の被害が見られなかったのは、今回の地震動の特性と関係しているのではないか」と問い掛ける。
◆地盤の揺れやすさに違い
佐藤技師長が抱いた疑問を、地震動に詳しい防災科学技術研究所(防災科研)の先名重樹主幹研究員に伝えた。先名主幹研究員が注目したのは、震度6強の地震動を観測した相馬市役所の地点と、佐藤技師長が調査した尾浜地区、粟津地区、柏崎地区の3地点(以下、3地点)とで、表層地盤の揺れやすさが違うことだ。
防災科研が「J-SHIS地震ハザードステーション」で公開している表層地盤の増幅率は、相馬市役所に近いK-NET相馬の周辺が1.6倍、3地点の周辺が1.1倍。両者には1.5倍の差がある。K-NET相馬では最大加速度が647ガルで、震度6弱を観測した。増幅率の差から大ざっぱに推定すると、3地点の最大加速度は445ガルになる。
先名主幹研究員は「実際の地盤ではもう少し差がつく場合がある。2倍以上の差があったとすると3地点の最大加速度が300ガル程度となり、擁壁にぎりぎり被害を及ぼさない揺れだった可能性がある」と話す。
微地形区分でも地盤の地質に違いが見られる。相馬市役所とK-NET相馬の周辺は軟弱な「三角州・海岸低地でかつ河川沿い」、3地点は比較的硬い「砂礫(れき)質台地または丘陵地」だ。
地震などで宅地が大規模かつ広範囲に被災した場合、通常は「被災宅地危険度判定」を実施する。相馬市内ではこれを東日本大震災後に実施していなかったので、当時も宅地の被害が比較的少なかったと推測される。今回も現時点では実施予定がないという。ただ、こうした不適格な擁壁が今後の地震でも被害を免れるとは限らない。擁壁の劣化が進んだ状態で、今回よりも最大加速度が大きく継続時間の長い地震動に襲われれば、大災害を引き起こす恐れがある。
地震の震動は表層地盤の違いで変わる。先名主幹研究員は「3成分の合成値で最大1432ガルの加速度を観測したKiK-net山元(宮城県山元町)では短周期成分が卓越していたが、K-NET相馬は多少軟らかい地盤で、KiK-net山元よりも卓越周期が長周期化している。擁壁や建物の耐震性能を検討する際は、表層地盤の増幅率を考慮した方がよい」と話す。