さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/031200752/

この数カ月間、脱炭素や再生可能エネルギー、そして水素社会関連の話を聞かない日はないほど、日本や世界でエネルギーを改革しようという動きが活発になっています。

 特に日本でその主力電源の1つになると考えられているのが洋上風力発電システム(以下、洋上風力)です。日経クロステックと日経エレクトロニクスでは、日本でも洋上風力を大規模に導入する動きが急速に進んでいることを2020年8月に特集「いきなり風力発電大国」で報じています。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ne/18/00062/?i_cid=nbpnxt_sied_blogcard

 2020年10月に、内閣総理大臣の菅義偉氏が国会の所信表明演説で2050年までの温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、と発言したことを受けて計画にはさらに弾みがついたようで、資源エネルギー庁は、2040年に洋上風力発電を最大45GWにするという目標を2020年12月に掲げました。

 ただし、世界からみるとこの目標は決して特別高くありません。例えば、英国は菅総理の所信表明演説の少し前に、2030年時点での洋上風力の導入量の目標をそれまでの30GWから40GW(うち、浮体式風力は1GW)に引き上げました。同国の現時点での導入量はまだ8GW超でしかなく、残り9年で32GW分を追加導入するというのはかなり野心的です。

 このほか、ドイツやオランダなどの共同の計画として2050年までに北海に100GWの洋上風力を導入する計画も進んでいます。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01267/00053/?i_cid=nbpnxt_sied_blogcard

 だから日本ももっと高い目標を……、と話が進みそうですが、逆に最近はかなり強い批判も多数聞かれるようになりました。特に、ネット世論における洋上風力発電への“風当たり”は非常に強いようです。


◆批判には定量的議論がない

 こうした批判の主なポイントは、「欧州と違って遠浅の海が少ない日本では洋上風力発電は向いていない」「欧州のような安定した風が日本では吹いていない」「季節間の風況の差が大きすぎる。冬はともかく、海が凪(なぎ)になる夏はどうする?」「台風はどうする?」といったものでしょう。

 これらはそれぞれもっともな指摘といえます。確かに日本は欧州と比べれば遠浅の海は少ないし、風の吹き方も安定していないし、台風などの脅威も否定できないのです。ただし、だから100%だめ、という結論にはなりません。どこにどれぐらいまでなら導入できるか、という定量的な議論が必要です。

 日本の風況や洋上風力の導入可能量(または導入ポテンシャル)については、観測データに基づく定量的な評価をまとめた報告書が、環境省、経済産業省、そして経済産業省傘下の研究機関である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などから、早いものだと10年以上前(東日本大震災の前)に出され、しかも何度か改訂されています。NEDOは、「風況マップ」という海上の詳細な風況を海底の地形情報などと合わせて表示するWebサイトを2006年に初公開。今は特に洋上風力についてより詳しい情報を載せた「洋上風況マップ(NeoWins)」を公開しています。

 環境省による導入可能量のデータによれば、日本の風力発電の導入可能量は16.9億kW(1690GW)と膨大です。そのうち、洋上風力は14.1億kW(1410GW)。同省による太陽光発電と陸上風力発電の導入可能量の合計が約6.4億kW(640GW)であるのに対して、洋上風力発電の可能性がいかに大きいかが分かる数字です。

 この導入可能量は、現在の技術水準や施工可能性なども考慮して決めているので、十分リアリティーのある数字といえます。

洋上風力だけで日本の消費電力量の4倍に
 1410GW分の洋上風力の年間発電量は、仮に設備利用率が商用化時の採算ラインといわれる30%だとすると、約3705TWh。現在の日本の年間電力消費量は980TWh前後なのでその4倍弱となります。少し以前はこうした試算に対して、「日本で風況の良い地域は北海道などに偏っており、そこからそんな膨大な電力を送れる送電線はなく、整備しようとすれば膨大なコストがかかる」という批判が出てきたのですが、だからこそ水素に脚光が当たっているのです。送電線で送りきれない分は水素、またはアンモニアなどの水素キャリアに変換し、貯蔵、運搬することで出力変動問題や送電線の容量問題を回避できます。

 再生可能エネルギー(再エネ)と水素を組み合わせて使うことで、再エネの主要な課題を解決しつつ、必要電力量の供給はもちろん、燃料や熱利用を含む1次エネルギーの大部分をカバーできる可能性さえあるわけです。


◆洋上風力否定派の切り札が「福島沖の実証実験の“失敗”」

 ところが2020年12月、再エネ、特に洋上風力発電推進派にとってややネガティブなニュースが飛び込んできました。経済産業省が東日本大震災を受けて2012年度から進めていた、福島沖約20kmの海上での浮体式洋上風力発電の実証実験の発電設備をすべて撤去することを決めたというのです。一部には「不採算性が理由」とした記事もありました。

 この結果、もともと洋上風力に批判的なネット世論がさらにヒートアップしました。「失敗の原因をちゃんと検証しろ」「実証実験に投入した660億円の無駄遣いをどう説明するのか」「このタイミングで、なぜ国は洋上風力を推進しようとするのか」といった具合です。

 この報道当時、実験を主導したNEDOから詳細な最終報告書は出されておらず、撤去の理由の詳細が見えなかったことから、筆者自身も洋上風力の今後についてかなりの疑問と懸念を抱きました。


◆2018年8月に実質的な最終報告を公表

 ただ、少し調べるとすぐに、撤去の理由ではないのですが、資源エネルギー庁が、この実証実験について「福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業 総括委員会 報告書」を2018年8月に発行し、インターネットに公開していることが分かりました。

 この実証実験はもともと2018年度までの予定で進められていたこともあり、本来であればこれが「最終報告書」になっていたはずの文書です。中身を読むと、この時点で最後は撤去することもほぼ決まっていました。ただ、実験当初、風車などに初期の不具合が相次いだことや、一部風車の稼働開始が遅れて十分なデータがとり切れていなかったことから、もう少しだけ実証実験を継続することにしたとあります。

 つまり、この2018年8月の報告書で実証実験の結果の大部分は分かるといえます。その詳細は直接報告書を見ていただきたいですが、ポイントとなるデータを引用して概要を紹介します。

 実証実験では、3基の風車と洋上変電所をそれぞれ浮体、つまり巨大な釣りの浮きのようなものの上に設置したシステムを建造して利用していました。日立製作所が2MW級と5MW級、そして三菱重工業が7MW級の風車をそれぞれ提供していたのです。


◆開発初期の技術が裏目に

 このうち、三菱重工業の7MW級風車は、それまでギアボックス式が主流だった風車に、独自開発の油圧式増速機を採用していました。増速機は、風車の15~20回転/分という回転速度を発電用に50/60Hzに増速するための装置。風車の大型化が進む中、メカニカルなギアに頼る技術の延長ではいずれ限界が来るとみて開発を進めていた野心的な次世代技術でした。

 ところが、これが裏目に出ます。実証実験では三菱重工業の7MW級の風車はこの油圧式増速機が当初から故障続きで、設備利用率は3.7%と、想定した成果をほとんど出せませんでした。ある元三菱重工業の関係者は「あれはまだまだ研究開発の初期段階の技術で、実証実験で使うには時期尚早だった」と言います。実際、油圧式増速機の初号機はずっと小型で、第2号機がこの7MW対応のもの。これをぶっつけ本番で実証実験に使ってしまったのです。

 実は三菱重工業は、同社の風車を使った実証実験開始前の2014年にデンマークVestas(ヴェスタス)と業務提携。大型風車の独自開発を断念し、風力発電事業でヴェスタスの風車を使う方針を決めます。この時点で、油圧式増速機の技術の事実上の放棄が決まっていたのです。将来のない技術の修理や改善に力が入るはずもありません。結果として、この風車だけは実証実験継続はせず、2018年6月を最後に撤去が決まりました。


◆故障対策が故障の原因に

 残る2基の風車は日立製作所製でした。そのうち、5MW級風車には、日立製作所が開発した独自技術が使われていました。浮体式風車で懸念された「ネガティブダンピング」、つまり、回転の制御と風車の前後の揺れが連動して拡大する不安定振動を抑制する技術です。

 ところが、これもやはり、その技術を実装した第2号機でした。皮肉にも実証実験では、この技術自体が風車の故障の主要因となってしまい、稼働率や設備利用率を低下させてしまいました。1年5カ月の運転期間の中で、およそ4カ月に1度、故障していたため、設備利用率は平均14.8%と低迷しました。


◆2MW級機の設備利用率は最大53%

 3基のうち2基が技術的課題にはまる中、残る1基は優秀でした。日立製作所の2MW級風車は既に同社が商品化済みの風車で、故障らしい故障はほとんどなく、稼働率は約95%。設備利用率に至っては2017年1月に最大53.0%という極めて高い数値をたたき出しています。当初の実験期間の最後の1年間の平均は32.9%ですが、外部要因による停止がほとんどなかった2016年度だけみると、設備利用率は平均35%とより高い結果が出ています。2016年7月~2017年1月の稼働率の平均は98.6%です。

 ちなみに2016年は台風の多い年で福島沖にかなり接近した台風が5つ(台風7号、9号、10号、11号、18号)もあり、暴風雨圏内にも入っていますが、その影響はデータにはほとんど表れていません。強いて言えば、2016年9月の稼働率が前後の月より2ポイントあまり低いのは台風の影響だったかもしれません。

 この2MW級風車の稼働実績をみると、福島沖での洋上風力発電は、12~2月の冬に設備利用率が高く、夏(6~8月)はやや低いことも分かります。しかも、夏が低いといっても19.2%はあり、凪によってほとんど発電しないという結果にはなっていません。これは、陸上と沖合20kmの洋上での違いかもしれません。


◆「風車2基の単年度収支は黒字化可能」

 この報告書では、採算性についての議論や結果も記されています。ただ、7MW級風車については、実績のない技術を使ったことで故障が頻発したことによる稼働率や設備利用率の低さから、あまり参考にはならないでしょう。実際の商用機にそんな風車は使わないからです。

 2MW級と5MW級風車については、故障率などを改善した上で海底ケーブルなどのメンテンナンスを工夫すれば(上図の「図10」)、単年度収支は、維持管理費用、保険費用(図では固定費用)、そして撤去費用などを考慮しても黒字が見込めるという解析が示されています。いくつかの条件付きとはいえ、「総括委員会としては、実証2基(2MW機及び5MW機)の組み合わせと運用方法やコスト構造の見直しにより、将来的には経済的には自立した運用となることが見込めると評価した」(資源エネルギー庁による2018年8月の報告書)という結論です。

 ただし、この場合の売電収入は当時の固定価格買い取り制度(FIT)の36円/kWhと有利な条件で、しかも初期費用の減価償却費を収支に含めていない点でかなり甘い評価なのは否めません。ただ、こうしたほぼ初めての取り組みで、しかも風車が1~2基という小規模なシステムで単年度収支が黒字ということ自体が珍しいのも確か。導入規模を拡大した際には、低コストでの発電と収益性を両立できる可能性はかなり高そうです。


◆「撤収も実証実験の一部」

 この採算性についての結論をみると、ネット世論による「失敗」の烙印(らくいん)がいったいどこに向けられているのか分からなくなります。確かに7MW級風車は明確な失敗でしょうが、そもそも実証実験に技術的失敗は付き物。それをもって、洋上風力発電の将来性を示すのに失敗した、とはいえません。

 ネット世論が気にしているのは、一部報道で、「経済産業省はこの設備の民間への払い下げを一時検討し、実際2事業者が手を挙げたが、結果として断念して、撤去を決めた」とされていることかもしれません。その場合、事業化できなかったことが「失敗」というわけです。

 ただ、この実証実験の概要を見る限り、たとえ初期費用の回収などを想定しなくても、事業性は最初からほとんどありません。理由は大きく(1)規模が小さすぎる、(2)日本から風車のメーカーが消えた、(3)日本の洋上風力の当面の主力は着床式、(4)設備の撤収まで含めて実証実験の一部、の4点あります。

 (1)について、風力発電、特に洋上風力は規模がすべてで、売電価格の引き下げ競争が進む厳しい環境の中、規模が小さくては勝負の舞台にさえ立てません。少なくとも500MW、できれば1GW前後の規模は欲しいところです。一方、この実証実験の送電ケーブルの容量は最大25MWで、必要な規模にはるかに及びません。

 加えて(2)、つまり風車を提供した2社がいずれも風車の独自製造や開発からは撤退しています。これではメンテナンスや故障の修理などもほとんど期待できないでしょう。そんな状況で設備を譲り受けても、すぐに立ち往生することは明白です。設備の払い下げに2社が手を挙げたということが果たして本当か疑わしいとさえ思えます。

 ちなみに日立製作所が風車の製造から撤退すると発表したのは2019年1月。「国の風力発電に対する政策が長い間不透明だったことが要因の1つ。2050年のカーボンニュートラル宣言がもう2年早ければ、違っていたかもしれない」(ある風力発電事業者)。

 (3)ですが、今の日本で多数の事業者が巨額を投資している洋上風力のほとんどは着床式、つまり浮体式ではないのです。浮体式は着床式の導入が一巡した後の選択肢かもしれませんが、当面は沿岸から高々数kmの距離にある遠浅の海で着床式洋上風力を手掛けたほうがリスクが少ないのは確かです。

 最後の(4)は最近、洋上風力の事業者にこの福島沖の実証実験について筆者が聞いた際の回答でした。「撤収費用がいくらになるかまだ誰も正確には分からず、その経験を得ることも重要」(同事業者)だというのです。

 結局、この実証実験自体に事業性を期待すること自体がほぼ最初から無理な注文だったといえます。経済産業省が何を考えて一時事業化を検討したのかは不明ですが、その断念を持って「失敗」だったとはいえません。

 ただし、相当額の税金を使って行われた国家プロジェクトだったのは確か。経済産業省と資源エネルギー庁は、延長期間部分を含めた詳細な最終報告書で、国民に詳しく説明する義務があるでしょう。
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