さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://digital.asahi.com/articles/ASP6G72ZFP5WUGTB005.html?_requesturl=articles%2FASP6G72ZFP5WUGTB005.html&pn=10

 政府による東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出方針について、朝日新聞が福島県知事と県内全59市町村の首長にアンケートを行ったところ、約7割が政府方針に否定的な姿勢を示した。国内外で海洋放出への理解が進んでいないことや、風評被害や賠償への対策が不十分であることが理由で、政府や東京電力の対応を疑問視する声も多かった。

 アンケートは5月下旬に行い、全60人から回答を得た。処理水の海洋放出方針について4択で尋ねたところ、7人が「容認できない」、34人が「どちらかといえば容認できない」と回答し、反対派が全体の68%(41人)となった。

 一方、「容認できる」はゼロで、「どちらかといえば容認」は5人。「無回答」は14人で、内堀雅雄知事や第一原発がある大熊、双葉の町長も含まれた。

 容認できない理由を複数回答で尋ねたところ、最多は「国内外の理解は不十分」(32人)で、「風評被害や賠償への国や東電の対策は不十分」(29人)、「多くの漁業者が反対している」(25人)と続いた。

 容認できる理由としては、「他に有効な手段がない」「廃炉促進に必要」がともに4人。「立地町などが早期処分を求めている」が3人だった。

 懸念される影響については、「農産品の買い控えが起きる」が44人、「観光客が減少する」が35人。政府の合意形成の進め方については「どちらかといえば評価できない」が35人、「評価できない」が10人だった。

 政府は4月、2年後をめどに第一原発の処理水を海洋放出する方針を決めた。大半の放射性物質が取り除かれた後も放射性物質トリチウムは残るが、法定基準の40分1未満に薄めた処理水にして海に流す。(関根慎一)


◆広がる懸念、周辺の県にも

 東京電力福島第一原発の処理水をめぐり、政府が海洋放出方針を正式決定してから2カ月余。福島県内では風評被害への懸念が高まり、周辺自治体にも政府や東電に説明責任を求める声が広がりつつある。

 「(海洋放出方針決定の)影響が出ているんじゃないかと、組合員からも声が出ている」。5月31日、風評対策を話し合う政府のワーキンググループ(WG)初会合。参加した地元漁業者や農家を代表し、県水産加工業連合会・小野利仁代表が訴えた。コロナ禍で干ものなど水産加工物の売り上げ低迷が続く中、処理水の報道が増えた昨秋以降は、特に首都圏向けで出荷の落ち込みが増したと感じるという。小野氏は「放出の見通しが示されるだけで、小売りも消費者も不安になる。他の産地に流れるのは当然」と話す。

 ふるさと納税の返礼品として、地元産コシヒカリが全国的に人気の湯川村。第一原発から西に約100キロ離れるものの、三沢豊隆村長は「基幹産業の米価への影響が非常に心配」と危惧する。約3ヘクタールの田んぼでコシヒカリを作付けをする村内の男性(45)は「原発事故で放射能の汚染はほとんど無かったが、数年は風評被害に苦しんだ。処理水の放出によって、安心安全への信頼が再び脅かされないか心配だ」と話す。

 風評への懸念は1次産業に限らない。原発事故後、工業製品にも風評被害が及び、放射能測定が行われてきた。今ではほとんど自然界と同じ数値しか計測されないが、昨年度も机や椅子など木工品を中心に215件が測定された。工業製造品出荷額が東北有数のいわき市の清水敏男市長は10年前の原発事故の影響が残る中、さらに処理水を巡る負のイメージが広まれば「風評の上乗せが懸念される」と心配する。

 懸念は周辺自治体にも及ぶ。処理水の処分方針決定後、政府は福島県内や宮城県で説明会を開いた。今後、茨城県や青森、岩手、千葉各県でも開催予定だ。6月上旬までに大小約130回の説明会を開催した。

 「あの悪夢が再燃するのではないかと恐怖に駆られている」。7日に宮城県庁で開かれた地元と政府側との意見交換会。参加した県消費地魚市場協会の石森克文氏は「原発事故が起き、買い手からは宮城県産以外の商品はないかとか、安ければ宮城県産を買うとか、価格交渉のカードに風評が使われてきた」と訴えた。

 宮城県内には、福島と隣接していながらも政府や東電の対応が手薄だったことへの不満が多い。県議会は2017、20両年に、海洋放出に反対する意見書を国に提出したが、返答はないという。副議長の外崎浩子氏は7日、「県議会が全会一致でまとめた。もう一度目を通してほしい」と求めた。

 宮城側の批判や不安に対し、江島潔・経済産業副大臣は「福島復興のためにも、処理水は海洋放出するのが現実的という結論に至った。実際に放出する2年後までにより多くの理解を得たい」と述べた。

 政府は7月中に関係閣僚会議を開き、風評被害対策の中間とりまとめを行う予定だ。処理水の海洋放出に反対している団体でも、対策への注目度は高い。原発事故後、日本の食品を輸入規制した国・地域は54に上ったが、現在は中国や韓国など14に縮小している。

 ただ、相手国が規制を解いても、買い控えが続くケースもあるという。政府内には「事故から10年、アイドルグループに福島県産食材を宣伝してもらうなど風評対策は続けてきたが、『決定打』はなかった。処分方針を理解してもらうには、対策を絶やさない国の姿勢を見せることしかない」との見方もある。

 福島県の内堀雅雄知事は「新たな風評が生じるのではないかという懸念と、復興の実現に向け、廃炉作業を安全かつ着実に進めなければならないという大きなジレンマを抱える。福島県だけの問題ではなく、日本全体の問題として進めていく必要がある」と訴える。(古庄暢、上田真仁)


◆「対策や賠償の具体像必要」

 関谷直也・東京大准教授(災害情報論)の話 処理水の海洋放出に大方が否定的で、風評への懸念が福島県全体に広がっていることが明らかになった。政府が十分な説明をせずに方針を決めたことが響いている。風評の被害者は漁業者だけでなく、農林業や観光なども含まれ、幅広い関係者から理解を得ることが求められる。風評被害対策や賠償の具体像を早く示し、説明を尽くす必要がある。



     ◇

【処理水をめぐる福島県の首長への質問と回答】(数字は%。小数点以下は四捨五入。質問文と回答は一部省略)

◆政府が決めた処理水の海洋放出について、自身の考えに最も近い選択肢は

容認できる0▽どちらかといえば容認できる8▽どちらかといえば容認できない57▽容認できない12▽無回答23

◆(「容認できる」または「どちらかといえば容認できる」と答えた人に)その理由は何ですか(複数回答)

安全性に問題はない0▽他に有効な手段がない7▽処理水海洋放出への国内外の理解は十分0▽風評被害や賠償への国や東電の対策は十分0▽立地町などが早期処分を求めている5▽廃炉促進に必要7▽その他2

◆(「容認できない」または「どちらかといえば容認できない」と答えた人に)その理由は何ですか(複数回答)

安全性に問題がある5▽陸上保管やトリチウム除去など、他の手段を検討するべきだ13▽処理水海洋放出への国内外の理解は不十分53▽風評被害や賠償への国や東電の対策は不十分48▽多くの漁業者が反対している42▽国の方針決定過程が不透明25▽その他7

◆処理水の海洋放出で、どんな影響が懸念されますか(複数回答)

観光客が減少する58▽農産品の買い控えが起きる73▽住民の帰還意欲が減退する12▽環境が汚染される3▽心配はない2▽その他22▽無回答7

◆政府の合意形成の進め方について、自身の考えに最も近い選択肢は

評価できる0▽どちらかといえば評価できる8▽どちらかといえば評価できない58▽評価できない17▽無回答17
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