さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD272K60X20C21A6000000/?unlock=1

運転開始から44年がたつ関西電力・美浜原子力発電所3号機(福井県美浜町)が6月23日再稼働し、いまの規制基準に適合した運転40年超の原発の再開第1号になった。高齢化が進むのは原子炉だけではない。運転や保守管理を支えるベテラン人材の引退が近づき、未経験者の増加で技能途絶の危機が忍び寄る。政府は原子力政策の先送りを続けてきたが、「人材の崖」が決断を迫っている。


◆万全の態勢も持続性に課題

美浜3号機は2011年5月に定期検査で停止して以来、10年ぶりの運転再開となった。長期停止後の起動で生じやすいトラブルに備え、関電は協力会社、メーカーを含め延べ約320人で総点検を実施。再稼働当日は通常の約2倍の手厚い人員で臨んだ。

万全の態勢ともいえるが、持続性には課題がある。今後、高齢の原発の再稼働が相次ぐからだ。

関電では、やはり運転40年超となる高浜1、2号機(福井県高浜町)が安全審査に合格、地元自治体も再稼働に同意した。すでに再稼働している同3、4号機も25年中に運転40年を迎える。高齢原発5基を抱え、保守点検を担う人員に余裕があるわけではない。

他の電力会社でも、すでに40年超の日本原子力発電・東海第2(茨城県東海村)のほか、九州電力・川内1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)などが相次いで仲間入りし、30年時点で40年超の原発は15基になる。共通する悩みが、保守点検や運転に携わる社員らの確保と技能の維持だ。点検漏れや施工不良、IDカードの不正使用といった不祥事が相次いだ原発もあり、とりわけ停止期間が長い原発では安全意識や士気の低下も憂慮すべき問題になっている。


◆実機の稼働は未経験、技能の維持に壁

この10年間、停止中の原発をたびたび取材し、所員らが士気や技能の維持に腐心する姿をよく目にしてきた。

東北電力の女川原発(宮城県女川町・石巻市)ではベテラン運転員が相次いで退き、稼働の経験がない運転員が増加。運転シミュレーター(模擬装置)で懸命の訓練を続けていた。女川のような沸騰水型炉(BWR)は他社を含めてまだ再稼働の例がない。四国電力などの加圧水型炉(PWR)は再稼働後に他社から訓練生を受け入れているが、型が違うと操作も異なり、訓練は難しい。発電所幹部は「再稼働が遅れると、実機での稼働経験がない運転員が多くを占める状況になりかねない」と不安をのぞかせていた。

中部電力の浜岡原発(静岡県御前崎市)では、保守点検に携わる作業員を火力発電所に派遣し、点検や交換作業などを学ばせていた。ここでも「原子力と火力では異なる機器も多く、限界がある」と戸惑う作業員の声を聞いた。

メーカーの状況はさらに厳しい。核燃料の新規発注が途絶え、燃料の主要部材である被覆管のメーカーが17年に生産停止、国内では製造できなくなった。21年春には蒸気発生器を手掛けていた川崎重工業が原子力事業から撤退した。サプライチェーンの綻びは、人材や技能の途絶に直結する。

日本原子力産業協会の調べでは、三菱重工業、日立製作所、東芝など主要6社が原子力部門に新規配属した人員は20年度に80人弱と、09年度のピーク時より7割も減った。溶接・組み立て・機械工など技能職の減少も著しい。同協会が約230社に聞いた調査では「技術力の維持・継承」を課題に挙げた企業は約6割に及ぶ。

人材育成を担う大学でも原子力離れに歯止めがかからない。大学や大学院の原子力専攻の入学者は1992年度に約670人だったが、2018年度は約260人(文部科学省調べ)。関連企業が新卒向けに毎年開いている合同就職説明会の参加者も、福島第1原発の事故をはさんで約4分の1に減り、横ばいで推移している。

原発建設に従事した経験をもつ技術者は15年度時点で45%(日本電機工業会など調べ)と半数を割り込み、経験豊富な50代以上の人材は30年ごろから相次いで引退する。技術や技能を受け継ぐ若手も減り、「人材の崖」は現実の問題になる。


◆米欧中は官民で人材育成に注力

国の原子力委員会はこの問題への危機感から、19年度版の原子力白書で人材育成を特集し、海外の育成策と比べながら方策を提言した。米英仏では法律や制度を整え、政府主導で育成策をつくり、産業界も新増設や廃炉など分野別の人材ニーズを予測して育成に力を入れている。

大学や研究機関も実験炉を企業に開放したり、優秀な留学生を産業界に送り出したりして存在感を示している。米国では長らく原発新設がなく、建設人材は急減したが、安全技術などは維持している。

脱原発を決めたドイツでも、長期に及ぶ廃炉や廃棄物処理を念頭に育成策を練っている。白書は日本でも官民が連携を強めて育成策を示し、大学での教育の拡充や国際化が必要と訴えた。

しかし、経済産業省や文部科学省などの関係省庁や産業界が、これを真剣に受け止めたようにはみえない。経産省の審議会は人材や技術継承の問題を議論しているが、「小型原子炉を開発すれば人材や技術をつなぐ切り札になる」など、小型炉頼みの意見ばかりが目立つ。

確かに小型炉は海外の原発ビジネスでは期待が持てるが、国内での建設は難航が見込まれる。現在主流の軽水炉とは異なる技術も多く、サプライチェーンや技能を維持できるかも不透明だ。

経産省が現在策定中のエネルギー基本計画では、脱炭素に向けて発電に占める原発の比率や新増設の扱いをどうするかが焦点となる。だが、この問題を温暖化対策の観点からの論議だけに委ねてよいのか。

福島原発事故を経験した日本にとって重大事故を二度と起こさないことは、温暖化対策とは別の次元で重い責務だ。原子力の安全は、技術よりも人材に頼る部分が大きい。政府が原発の位置づけを明確に示せぬまま思考停止が続き、人材や技能を確実につなぐ計画を描けないなら、原発への依存を下げる選択肢も現実味を増してくる。
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