さかなのかげふみ @Spia23Tc

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 この夏もJEPX(日本卸電力取引所)の市場価格が高騰する可能性が高まってきた。正直なところ、高騰しない理由を探す方が難しいほど、悪条件が重なりつつある。新電力の電源調達状況はすこぶる悪く、大量淘汰の可能性すら見え隠れする。

 2021年の冬の価格高騰は、大手電力のLNG(液化天然ガス)調達量が不足したことで天然ガス火力発電所が軒並み出力を低下。発電電力量が大幅に減ったため、JEPXは1カ月近く売り切れ状態が続いた。

 資源エネルギー庁や大手電力各社は、寒波襲来による電力需要の増加が原因だと説明したが、実際には例年と比較して大した寒波ではなかった。百戦錬磨の大手電力各社が、単純に寒波でLNG調達量が不足したとは到底考えられない(「電力市場高騰の怪、『寒波主犯説』の思い込みを斬る」)。

 つまるところ、新電力のシェアが拡大し、大手電力の小売部門がエリア需要を正確に予測するのは不可能になってきたということだろう。予測ミスに気がついた時には、時すでに遅しだ。

 新型コロナウイルスによる経済低迷から中国経済が復調し、LNGの需給はタイトになっていた。JERAなど調達規模が大きな企業は別として、LNG調達に苦戦した大手電力もいたといわれる。


◆今夏は石炭火力発電所も止まる?

 今夏に向けては、早くも3月から市場高騰のシグナルが出始めた。まず気象だ。

 今年2月に気象庁が発表した暖候期予報では、エルニーニョ・南方振動の周期からラニーニャは終結するため、猛暑にはならないはずだった。ところが5月下旬になって、偏西風の流れが例年とは異なることが判明。多くの気象予報士が「今夏は猛暑になる」と予測し始めた。

 太平洋高気圧とチベット高気圧の両高気圧が、ちょうど日本列島の真上で重なり猛暑となる可能性が気象シミュレーションで示されたのだ。夏の電力需要はエアコンによるところが大きく、猛暑になると電力需要は急激に増える。

 7月23日に開幕する東京オリンピック・パラリンピックの影響を懸念する声もある。通常であれば需要が減少する土日に、自宅でテレビ観戦する人が増えることで、思わぬ需要の増加が起きる可能性があるためだ。今夏は総じて、電力需要が増える可能性が高そうだ。

 大手電力各社のLNG調達状況も芳しくなさそうだ。新型コロナで停滞していた世界経済が回復の兆しを見せ、燃料価格は上昇している。日本の火力発電の半分はLNG火力だが、LNG価格は調達量で日本を圧倒する中国に振り回される。

 目下、中国は急激に需要が回復している。そして今夏、猛暑に襲われそうなのは、日本も中国も同様だ。

 ある大手電力幹部は、「LNG価格は既に高くなっている。加えて、石炭火力用の燃料炭が手に入らない。JERAなど規模の大きな電力会社は調達できているが、地方の大手電力は調達に苦戦しているのが実情だ」と明かす。

 今冬はLNGの調達量不足でLNG火力の出力が低下した。今夏は、LNG火力に加えて石炭火力の出力低下が起きる可能性まであるというのだ。


◆広域機関の「供給逼迫予告」に新電力騒然

 新電力の電源調達を取り巻く状況は、すこぶる良くない。今冬の高騰でダメージを受けた新電力の多くは、今夏に向けて相対契約を厚めにしようと考えている。

 ところが、市場高騰の影響で混乱が続く3月の時点で、新電力各社から「夏の相対契約の玉が全く出てこない」という悲鳴が聞こえてくるようになった。

 さらに電源調達状況を悪化させたのが、電力広域的運営推進機関が3月31日に公表した「供給計画」だ(「2021年度供給計画の取りまとめ」)。2021年度の月別の予備率見通しで、7月と8月の東京エリアの予備率が10%を割り込んでいたのだ。

 2021年度冬季も北海道エリア、東北エリア、沖縄エリアを除いて予備率が10%を下回る計画だった。新電力各社に衝撃が走った。

 加えて、広域機関は4月7日、小売電気事業者に対して夏と冬の高需要期の供給力確保が難しくなる可能性が想定されるという理由で、先渡取引や相対取引で早期に電源を確保するように要請した。

 だが、広域機関がいくら要請したところで、その時点で既に相対の玉は極めて少なく、新電力に残された対策は限定的だった。

 当然ながら相対契約の獲得競争はさらに激しさを増し、価格は大きく上昇した。平時であれば、相対契約は東日本のベース契約で10円/kWh程度、ミドル契約で14円/kWh程度。それが、今夏はベース15円/kWh、ミドル20円/kWhなど相場は高値で張り付いている。そのため、通常であれば高値で敬遠する常時バックアップを契約する新電力も少なくない。

 常時バックアップは期間限定の契約は不可能なうえ、毎月、基本料金がかかる。一度導入を決めるとJEPX価格が低い春・秋も使わざるを得ないため、調達価格が上がってしまう使い勝手の悪い電源だが、背に腹は替えられない。

 こうした場面でこそ先物取引が効果的だが、TOCOM(東京商品取引所)もEEX(欧州エネルギー取引所)も取引量こそ増加しているが、新電力が期待する商品が揃っているとは言いがたい。先物市場の売り玉はベース電源中心で、ミドル電源は少ない。ベースは他の手段で調達している新電力が多く、不足しているミドル電源を先物取引に期待しているため、ミスマッチがある。

 JEPXやインバランス価格の高騰に起因する金融機関からの追加融資の対応に追われ、夏の電源確保に少し出遅れた新電力の状況は深刻だ。大手電力に打診をしても、卸供給を求めても門前払いばかりで、交渉テーブルにつくこともままならない。他の新電力に打診をしても高値を要求されてしまう。

 こうした新電力の多くが、2度目の追加融資依頼を金融機関から固く禁じられている。冬の高騰に首の皮一枚で生き残り、安堵のため息も束の間、今夏の高騰次第では事業継続を断念せざるを得ない新電力も少なくないことだろう。


◆トレーディングに損切り、生き残りを最優先に動く新電力

 一方で、今冬の轍を踏むことのないよう、生き残りを最優先に考えて動いた新電力も少なくない。このような新電力の行動は、主に2つに分かれる。まず、調達コスト削減のためのトレーディングの実施だ。

 まず、早期に電源調達活動に動き、高めの金額でも必要量の相対契約を確保。調達活動は引き続き継続し、より安価な条件で調達できそうだと見るや、先に調達した分を他社に転売する「調達電源の差替え」を行う。

 中堅新電力幹部は「エネルギートレードは平時から行なっている。それが、こうした異常事態でも調達電源を機動的に組み替え、卸先の新電力と速やかに交渉する訓練になっている。今冬と今夏はこれまでの成果が出ている」と自信を見せる。「電源がない」と慌てふためき藁にもすがる思いで調達活動をしている新電力とは、大きな違いがある。

 次に、早期に損切りを決断し完全防御体制を構築する新電力もいる。こうした新電力は、市況が読めない状況でギャンブルはしないと決断している。早々と相対契約でベース電源を1年間購入することを決め、余剰が出た時にJEPXに逆ザヤで売ることも辞さない。

 一般的に、新電力が最も安価に電力を調達することを目指すのであれば、春と秋はJEPXからの調達量を多くし、夏と冬には相対調達を多くするというのがセオリーだ。しかし、緊急事態発生の可能性があると見越して、発電事業者に対して過度の交渉はせず、調達最優先で動き高騰リスクを完全にヘッジする。

 ある新興新電力の幹部は「今冬の高騰以降、新電力には逆風が吹き荒れている。容量市場の導入後に市場が緩和される可能性があるとすれば、今は耐え忍び、生き残りを優先させる。特に夏と冬は利益獲得を最初から目指さない」と、徹底的な防御方針を貫く。

 電気事業は、長期に渡る事業継続が求められる事業だ。利益を上げられるターンではないと判断し、再び自分たちに追い風が吹く展開まで「牙を研ぎ爪を磨く」という選択は、極めて妥当な経営判断といえよう。

 今冬の市場高騰は多くの新電力にとって「寝耳に水」の未曾有の危機だった。そして今夏は、今冬の教訓をどのように活かそうとしているかが問われている。


◆今冬の電力危機は「お咎め無し」、強気の大手電力

 一連の動きを見ていると、新電力は大手電力の“復権シナリオ”に載せられてしまったようにも見える。大手電力は新電力に対して明らかに強気な態度に出ている。

 前述のように、夏に向けた相対契約の玉は例年に比べて圧倒的に少なく、卸供給を求めても交渉のテーブルにもつかない。また、JEPXの「発電情報公開システム」(HJKS)によれば、今春の発電電力量は、ここ数年と比べて少なかった。

 供給計画で予備率が低いことが公表されると、梶山弘志・経済産業相は老朽火力の休廃止が原因だと説明した。

 電力不足の懸念が強まることは、大手電力の悲願である原子力発電所の再稼働にとっても追い風だ。事実、6月には関西電力・美浜原子力発電所が運転開始から40年を超えた原発として初めて再稼働した。

 今冬の電力危機は大手電力のLNG調達量不足が招いた。だが、深刻な需給逼迫が起きても、異常な市場高騰が発生しても、結果として「お咎め無し」だったことが、大手電力の強気の背景にある。

 もっとも、発電所の稼働に経済的合理性を見いだすことができない大手電力側の考えも、十分に理解できる。

 春先は太陽光発電所で発電した電力がJEPXに大量に流れ込むため、JEPX価格は0.1円/kWhなど極端な安価になってしまう。この状況を鑑みると、発電所を稼働させJEPXに売ることはメリットに乏しい。

 2024年度に容量市場からの支払い始まり、経営が安定すると見込めるまで、大手電力に不採算になる可能性がある発電所を動かす余裕はないということなのだろう。つまり、気候の緩急や燃料価格の上下に関わらず、夏と冬に大手電力が発電所の稼働を抑えることにより、市場高騰が発生する流れは継続する。

 新電力にシェアを奪われている中で、採算性を低下させ、敵に塩を送ってまで発電所を動かしたくないと考えるのは、自然なことだろう。ただし、大手電力は国内の発電シェアの約8割を占める独占事業者だ。需要家への安定供給の維持と競争促進のために、独占事業者の行動は、監視し制限するのが当然だろう。


◆現在の状況は新電力大量淘汰の前触れか

 市場は水物だ。今夏に本当にJEPXが高騰するのかどうか。高騰の程度はいかほどかは、蓋を開けてみなければ分からない。発電所が急に稼働するかもしれない。反対に、発電所トラブルで突然、停止する可能性もある。

 しかし、蓋が開くタイミングを待つことなく、できる限りの手を尽くそうとする新電力こそが、荒波を乗り越え一段とたくしい姿で今後の電力システム改革を牽引する一角になると確信している。

 今冬の市場高騰から、新電力業界には大雨が降り続いている。この雨は、旧態依然として情報収集に疎く、経営判断も鈍い新電力を淘汰する大洪水の前触れである。旧約聖書のノアのように、一刻も早く箱舟を完成させることが新電力に求められているのだ。


村谷 敬 AnPrenergy代表取締役
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