https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01712/071900025/
静岡県熱海市で起こった土石流のメカニズムが、徐々に明らかになってきた。逢初川の流域(分水嶺を境にして、降水が流入する全域)の上流部にあった盛り土全体が、流域外の地下浸透水の影響を大きく受け、水を大量に含んで下流まで流れ落ちたという推定メカニズムを県が公表した。
県は盛り土の崩壊について、下流側が起点となって順に起こったと推測している。例えば、想定される現象の1つが「パイピング」だ。盛り土内の地下水位の上昇に伴って、下端部から水が噴出。下端部の土砂が流れ落ちた影響で上部の盛り土も連鎖的に崩落した可能性がある。
崩落した盛り土は下流域の市街地まで流れ込んだ。県が災害後に実施した計測によると、土石流が通った上流域の河道内に盛り土はあまり残っていない。
難波喬司・静岡県副知事は2021年7月15日の会見で、「盛り土の上部まで満水状態でなければ、上部の盛り土は流動化しないため河道内にたまっているはず」と説明している。つまり、崩壊した盛り土の地下水位はかなり高く、飽和していたことを意味する。
◆1万6000m3の表流水では飽和しない
崩落した盛り土は5万4000m3だ。ではこの土砂の量を飽和する水は、どこから集まったのか。考えられる流入経路の1つが表流水だ。
「一般的に盛り土などの造成地では、上端が平らになるため、水を集めやすくなる。道路などが水を呼び込んで崩壊に至っている土砂災害も少なくない」。土砂災害のメカニズムなどに詳しい応用地質技術本部の上野将司社友は、こう話す。
県熱海土木事務所が被災の翌日に実施した現地調査では、「盛り土の平たん部の表流水が地下に浸透し崩壊地に流れ込んだ可能性がみられる」と判断している。
ただし、盛り土は逢初川の流域の上流部にあるため、地上で集める表流水の量は限られている。
逢初川における盛り土下部までの流域面積は4万m2だ。降り始めから盛り土崩落までに雨の80%が地下に浸透したと仮定すると、地下に流入した水量は1万6000m3となる。盛り土の崩壊量が5万4000m3なので、飽和する量ではないと県は推定している。
そこで、県がもう1つの流入経路として挙げているのが、隣の流域からの地下水による浸透だ。流域外のより標高のある地域からの地下水を考慮すると、盛り土への浸透量はさらに増える。県は今後、ボーリングなどを実施して水の流れなどを詳細に調査する方針だ。
これまでも、流域を越えて流入した地下浸透水が地下水位を上げ、土砂災害を引き起こす例はあった。「盛り土と地山との境や風化帯などから、流域を越えて水が浸透する」。応用地質の上野社友はこう指摘する。
一方で県は、流域外から流れ込む表流水の影響について被災後に現地調査を実施した結果、「表流水が流れ込んだ形跡は見られなかった」と判断している。ただし、道路などを伝って流域外から表流水が集まって土砂災害が起こるケースは多くあるため、引き続き詳細な調査が期待される。