さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01712/072100027/

 静岡県熱海市で発生した土石流災害の起点となった盛り土。その盛り土の排水設備の有無については、被災直後から物議を醸している。そこで日経クロステックは記者会見の内容の他、県が公開している情報や専門家への取材などから、排水設備が十分でなかったと思われる根拠を3つにまとめた。

 まずは、雨の降り方と崩壊した現象との相関から見ていく。今回は、本格的な降り始めから土石流発生直前までの3日間にわたる累積雨量が449mmと過去最大だった。ただし時間雨量の最大は24mmと、この10年間における最大値である同63mm(2016年7月)と比べて多いとはいえない。

 一般に短時間強雨ほど、地下で流せる容量を超えた水が供給されるため、表層を流れる傾向にある。今回は短時間で大量に降ったわけではなく、数日にわたってやや強い雨が降り続いた影響から、その多くは地中へ浸透したと考えられる。

 SNS(交流サイト)などで拡散した熱海市の市街地を襲った土石流の映像を見る限り、家屋を押し流したのは水を多く含んだ泥流に近かった。崩壊した盛り土は大量の水を含んでいた可能性が高い。

 つまり、盛り土が地下で水をためて飽和状態になって崩落に至ったと類推できる。水をためるということは盛り土に適切な排水設備がなかった、もしくは排水設備があってもうまく機能しなかった――。これが1つ目の根拠だ。


◆排水設備の残骸が見当たらない

 続いて2つ目の根拠は、被災後の現地の様子から排水設備が見当たらないことだ。

 県は被災後のレーザー計測などによって、崩壊起点部に現在も2万m3ほどの盛り土が残っていると試算する。暗きょなど排水設備を盛り土に設置していたならば、現地に少しでもその残骸が残っているはずだが、公開されているドローンの映像や写真からは見つからない。

 地表面の水を処理する排水溝もなかったとみられる。盛り土の規模や占有の用途にもよるが、内部に染み込む水の量を減らす目的で、規模の大きい盛り土だと通常は設置するケースが多い。

 応用地質メンテナンス事業部の大曽根啓介部長は、「崩落起点の写真や映像からはコンクリートの破片が見当たらなかった」と話す。

 「仮に排水溝を設置していた場合は、排水溝の維持管理が適切だったのか否かを検証する必要がある」(大曽根部長)。排水溝に枯れ草や泥がたまったまま放置すると、水が流れにくくなる。あふれ出した水は盛り土の表面を削る可能性があるからだ。

 火山学が専門の静岡大学防災総合センターの小山眞人教授は現地を調査して、「露出する地層は粘土質ではなく砂や小石などから成る固結度の低い砂れき質だった。周辺の地山の地層との特徴が合致しない。地表面で見えているのはほぼ盛り土だ」と指摘している。排水設備を盛り土に設置していたならば、現地に残っていてもおかしくない


◆実行性の低かった条例

 最後の3つ目の根拠は、盛り土の造成を規制する条例などの実行性が不十分だった点にある。盛り土などで造成する場合、「静岡県土採取等規制条例」に基づいて、県や市町へ事前に計画書を届け出る必要がある。面積に応じて提出先は変わる。

 例えば熱海市内に造成する場合は開発面積が1ha未満だと同市に、1ha以上だと県に届け出が必要だ。今回、造成に関わった不動産管理会社は約0.9haの土地に約3万6000m3の盛り土を積み上げる計画を、07年3月に熱海市へ提出した。

 その後09年12月には、盛り土を3段積みにして工法を変更するといった計画の変更届けを市に提出。盛り土の高さは土採取等規制条例の技術基準の規定である「原則15m以内」を順守していた。さらに排水設備なども明記していたという。そこで市は変更を受理した。

 しかし実際に出来上がった盛り土は、当初の計画と全く異なっていた。県が住民から提供を受けた11年時の写真などからは、盛り土が10段程度に積まれ、高さも35~52mに達していたという。

 県や市などは是正するよう何度も指導していた。しかし県の条例が規制の弱い届け出制や罰金20万円以下の緩い罰則だったこともあり、十分な排水設備を施工させる実行性は低かったとみられる。静岡県は、開発行為の中止命令や罰則に懲役刑を盛り込んでいる他県の条例を参考に、見直しを進めている。

 他方、盛り土の高さが15mを超える場合などについては、県の林地開発許可審査基準に規定がある。同審査基準では、盛り土で渓流を埋め立てたり、盛り土を造成する斜面に湧水があったりした場合、地下水を排出する暗きょの設置を義務付けている。

 もしも今回の盛り土を林地開発許可審査基準に基づいて排水対策を実施していれば、雨は適切に処理できていたのだろうか。

 同基準では、10年確率降雨強度として1時間当たり119mmの雨量を表面水として流せるよう、高さ5mごとに1m以上の幅の小段を設置して、排水設備を設計する規定がある。今回の規模の雨量だったら、十分に処理できていたはずだ。

 一方で、地下の排水については明確な数値の明記がないので分からない。盛り土は渓流を埋め立てることになるので、先述したように暗きょを必ず設置する必要があった。県は流域を越えて流入した地下水が崩壊に関係している可能性を指摘しており、そのような場合、暗きょの容量をどう設定するかが今後、重要なポイントになりそうだ。
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