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「新規制基準下で全国初の40年超原発の起動だ。今夏は電力需給に寄与できる」。関西電力美浜原子力発電所3号機が10年ぶりに再稼働した6月下旬、近藤佳典・原子力事業本部副事業本部長は強調した。大飯原発3号機も7月30日に定期検査を終え、営業運転を始めた。
両原発の運転再開などを受けて、電力広域的運営推進機関は西日本の電力供給余力を示す予備率を引き上げた。7月は6.2%、8月は6.5%と当初見込みよりそれぞれ2ポイント以上改善した。猛暑になれば予備率が低下する恐れもあるが、安定供給の目安とされる3%を上回る見通しだ。
◆運転期間に制約
ただ原発再稼働による電力需給の緩和は例外的な動きだ。国内の原発は建設中の3基を含めて36基あるが、2011年の東京電力福島第1原発事故後に再稼働にこぎつけたのは10基しかない。「世界で最も厳しい水準」とされる新規制基準に基づく審査の長期化や、審査に合格しても地元同意が得られず動かせない原発が多い。
原子力規制委員会による審査をほぼ終えた東電柏崎刈羽原発7号機は136万キロワットの供給能力がある。地域間の電力融通などを考慮せずに単純計算した場合、電力需給が最も厳しくなる22年1~2月の東電管内の予備率を2ポイント強押し上げる効果がある。だが同原発ではテロ対策の不備や安全対策の未完了が相次ぎ発覚し、営業運転再開にはめどが立たないままだ。
運転期間の壁も立ちはだかる。原発の運転期間は事故後に「原則稼働40年、最長20年延長可能」と定められた。すべての原発が60年間運転すると仮定しても70年にはゼロになる。経済産業省が7月に示した次期エネルギー基本計画原案では原発の増設や建て替えを封印しており、先細りが避けられない。
現場には閉塞感が漂う。原発関連企業がつくる日本原子力産業協会が開く原子力業界の就職セミナーに来場する学生数は20年度は439人と、10年前の2割にとどまった。新井史朗理事長は「(福島)事故以降、学生の数は激減し、なかなか上向かない」と話す。
文部科学省によると、大学や大学院の原子力専攻の19年度の入学者は250人だった。温暖化対策として原発が推進されていた10年度には300人台まで増えていたが、福島第1原発事故後は減少傾向が続く。
原発建設に従事した経験者は高齢化している。今後増える廃炉でも燃料の取り出しや建屋の解体といった作業に必要な人材や技術力が不足すれば支障が出かねない。
◆欧米は国が育成
政府や業界団体、企業、大学など約80社・機関が集まる「原子力人材育成ネットワーク」は今年度に新たな中長期戦略を策定する予定だが、国の中長期的な原子力政策が明確にならなければ実効性は期待しにくい。
欧米では国が主体となって人材育成を手掛けてきた。原子力白書によると、米エネルギー省は09年から原子力分野の支援プログラムを実施し、インフラ整備や奨学金など向けに20年度は500万ドル(約5億5000万円)の予算を確保した。英国は18年に国家予算で専門大学を設立した。
次期エネルギー基本計画では30年度の原発比率を20~22%に据え置いた。原子力利用を支える人材を十分に育成できず、発電量が不安定な再生可能エネルギーを支える電源として原発を活用できなくなれば、温暖化ガスの削減目標も絵に描いた餅に終わりかねない。
江渕智弘、新井惇太郎、広沢まゆみが担当