さかなのかげふみ @Spia23Tc

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 政府は東京電力福島第一原発にたまる処理水の海洋放出方針を決め、風評被害対策も打ち出した。だが、漁業者や自治体の反対論は収まらない。放出が始まる約2年後までに、どんな対策が必要なのか。福島県の漁業復興に助言を続けてきた北海学園大学の濱田武士教授に聞いた。

――東京電力福島第一原発事故で、福島の漁業はどんな被害を被ったのでしょうか。

 「事故直後には高濃度の汚染水が原発から放出され、海洋汚染の影響が明確になりました。県が行った2011年のモニタリング検査で、基準値(1キロあたり100ベクレル)を超えた魚は39・9%。政府の出荷制限を受け、県内では操業が1年あまり停止しました」

 ――事故から10年半が過ぎ、復興はどこまで進んでいるのでしょうか。

 「12年6月から試験操業を始め、リスクの低い海域や魚から徐々に試験操業の対象を広げてきました。今では操業自粛の原発10キロ圏を除き、出荷制限中のクロソイ以外の海水魚をとることができるようになりました。しかし流通を慎重に広げてきたこともあり、漁獲高は事故前の2割未満にとどまっています。漁業者の生活は賠償で維持されている部分が大きいです」

 ――政府が決めた処理水の海洋放出で、福島の漁業にどんな影響が懸念されますか。

 「マイナス材料でしかありません。消費は常に競争に晒されていて、少しでも不安材料が出るのは痛手です。処理水に伴う問題は、他の産地や食材にとって侵食できる『チャンス』で、福島産にとっては売り先を失いかねない『ピンチ』となってしまいます」

 ――漁業者が反対する背景を教えてください。

 「苦慮の末、漁連は『汚染される前の水』と『汚染されてからの水』で対応を整理しました。地下水バイパスやサブドレンでの放出は原発建屋に入る前の水として認めても、一度汚染された処理水の放出は認められない、と。東電と国が処理水を『関係者の理解なしには処分しない』と約束したことで漁連はサブドレンを容認した経緯もあり、漁業者は処理水の海洋放出を容認できないのです」

 ――県漁連が容認に転じることは。

 「ないでしょう。容認する利点が何もありません」

 ――現状は「風評被害」と言えるのでしょうか。

 「消費者庁の今年の調査で、放射性物質への不安を理由に福島産食品の購入をためらう人は1割を切っており、風評被害という局面ではありません。市場における福島産の序列が劣後し、出番を失った状態が続いていると言えます」

 ――どういうことですか。

 「3月までの試験操業では出漁を制限していたことで、福島産の流通量は限られました。さらに事故後3年目くらいまで基準値を超える魚が一定数あり、流通業者が福島産を無理して使わない選択をしたことで、他県産への置き換えが進みました」

 「その後も福島産に戻す動機が働かないまま、状況が固定化されました。今では消費者の不安はほぼ解消されたけれども、買いたくても福島の魚が売っていない状況と言えます」

 ――では、どのような対策が有効なのでしょうか。

 「この10年で魚の消費量自体が減り続ける中、福島産をあえて選んで売ってもらうことは難しさを増していますが、流通・小売業者に積極的に働きかけていくことは重要です。県産魚を店頭販売するイオンの『福島鮮魚便』のような取り組みが広がると良いと思います」

 ――政府が決めた風評被害対策は有効ですか。

 「風評を出さないようにするリスクコミュニケーション対策と、魚の買い取りなど風評被害が生じた場合の対策など、相当考えられた内容とは感じます。ただ、事故前の状況を取り戻せていない中、従来の『風評対策』にとどまっている印象です」

 ――4月の方針決定後、実際に「風評」被害は出ているのでしょうか。

 「今はコロナ禍で需要が減り、値段が出ないという状況でしょう。おもに需要との関係で価格は決まるので、因果関係の特定は難しい。もし今後、何らかの要因で魚の価格が下落した場合、東電は風評被害をどこまで認めるのか、不透明な部分が大きいです」

 ――温暖化の影響で、県沖でとれる魚にも変化があり、トラフグなどのブランド化をめざす動きもあるそうですが、復興の足がかりになりませんか。

 「希少性を強みにするブランド化は数量が少ないため、全体を救うことは難しく、需要創出の支援がないと固定化された市場構造には対抗しきれません。ただ、新たな市場開拓は大事な考え方だと思います」(聞き手・関根慎一)

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 はまだ・たけし 1969年3月、大阪府吹田市生まれ。北海道大学水産学部卒、同大学大学院水産学研究科修了。東京海洋大学准教授を経て、2016年より北海学園大学経済学部教授。県漁連「県地域漁業復興協議会」、県「ふくしまの水産物販売戦略会議」両委員として県漁業の復興に助言する。著書に「漁業と震災」(みすず書房)など。

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ヒラメの福島県内漁獲高(沖合底引き網)

2010年 21万5759キログラム

2011年  3万5377キログラム

2012年       0キログラム

2013年       0キログラム

2014年       0キログラム

2015年       0キログラム

2016年  4万1670キログラム

2017年 17万5273キログラム

2018年 18万4760キログラム

2019年 12万4169キログラム

2020年 18万3854キログラム

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〈東電福島第一原発処理水の海洋放出〉政府は4月に原発処理水の海洋放出方針を決め、8月には冷凍可能な魚の買い取りなどの風評対策をまとめた。県内では県漁連やJA、森林組合などが反対を崩さないほか、大半の県内市町村議会が海洋放出に慎重な決議や意見書を可決。一方で第一原発がある大熊、双葉両町議会が早期処分を求める意見書を可決するなど、県内世論の「分断」もみられる。
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