miz @ohanamiz

2019年07月17日(水) 14:34:45

闘刃学園小説【闘刃闘手の能力とか講座】

闘刃学園(https://twitter.com/i/moments/1078611881428832256)の闘刃闘手の能力について語る小説です。
時期的に秀逸は登場しておりません。

※本作品の無断転載・台詞の使用を禁じます。


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闘刃学園【闘刃闘手の能力とか講座】 講師/東雲稔





「お前ら付き合いがいいなぁ。かがりの特別補講だってのに」

 呆れたような微笑ましいというような複雑な笑みを浮かべた東雲の前にはかがりの他にクラスのメンバーが勢揃いしている。
 放課後、御役目番所施設内にある小会議室にてのことである。
 東雲は転入生であるかがりにたびたび棟師市の歴史や闘刃闘手に関することを補講として特別に時間を作って教えていた。
 補講といっても学業の成績に直接関係あることではなく、棟師市を離れて東京で暮らしていた関係で知識がないのを補う雑談のようなものというゆるい東雲ならではの認識である。
 場所はいつも気まぐれで選んでいる。今日はこの後に東雲が御役目の用事があるという理由で番所まで来てもらおうとしたところ、ノリのいいクラスメートたちがついてきてしまって、空いていた会議室を急遽借りることになったのである。
 会議室といっても長い座卓がいくつか並んでいる和室で、一同は適当に座布団を引っ張り出して座り込んでいた。
 どうせならと東雲は代表者に勇斗を指名して給湯室に一式あるからお茶をいれてくるように指示を出す。慣れたように勇斗は手伝い要員を指名してお茶の準備に向かった。
 数人に手伝ってもらって帰ってくると事務員が気にかけてお菓子を差し入れしてくれたと袋菓子をいくつか手にして一同の前に広げる。生徒側も持っていたお菓子を提供し、ちょっとしたお茶会状態になる。
 ちゃっかり自分もチョコ菓子をほうばり茶をすすりつつ、東雲は同じく遠慮なく食べているかがりを見た。

「さて。今日は闘刃闘手の話な。歴史の話はもうだいぶ頭パンクしてきたろ?」
「アタマぷしゅーって感じ! もうムリ! ごめんなさい!」
「まあ歴史ってのはさ、詳しく暗記できなくてもなんとなーくそんなことあったんだー的な感じで知ってればいいのよ。何も知らないよりは全然いい。必要になったら調べるとか詳しい人に訊こうってときに、質問のしようがないとか検索の仕方がさっぱりわからないっていうのが困るんだ。どの学問でもそんなもんさ……というのは御厨先生に黙っておいてくれな。教師が本職の御厨先生と、歴史研究者の俺の差はそういうところだからなぁ」
「怒られるの?」
「怒んないと思うけどアイアンクロー食らうからやめて」
「はーい!」

 かがりが元気な返事をすると、周囲から笑いが漏れる。東雲としても正直この返事が当てにならないと思いつつ、話をもとに戻した。

「まずは闘刃闘手の基本的なことからおさらいだ。じゃあせっかくみんないるわけだから、説明してもらおうかな。誰がいいかなー……あ、そのおかきちょうだい。うん、それそれ。じゃあ開路、ついでに説明頼むわ」
「えぇー!? 俺ぇ!?」

 個別包装なのをいいことにおかきを放り投げるという無作法をする開路に、涼しい顔でキャッチしてうんうんと笑顔で東雲が返す。
 
「ほい、闘刃ってなに?」
「えーと、武器に変化できる人」
「闘手は?」
「変化した武器を持って戦う人」
「両者の制限は?」
「決まった武器種にしか変化できないってのと、決まった武器種しか扱えないってこと」
「はい、よくできました。かがりもここまでは問題ないな?」

 かがりが開路に親指を立てて見せてから、うんと東雲に返す。

「コンビを組むにあたりまずはじめにネックになるのがこのマッチングってわけだ。武器種が合わなければ変化できない、できたとしても武器をまともに扱うことができないって状態になる。そればかりでなくマッチングをクリアできてもさらに重要な要素が出てくる。今日はそのあたりの話をしようか。相性の話だ」
「あいしょう……仲良しさんかどうかって感じ?」
「仲良しじゃなくても問題ないってケースも出てくるよっていう話」

 いまどきの高校生としては珍しいかがりの素直な感性は東雲にとっては好ましい。
 ニヤッと笑って、これはかがり自身にもかかわってくる大事な要素なんだが、と彼は続けた。
 
「闘刃闘手はさらにそれぞれタイプに分かれるんだ。だから相性がいい組み合わせで組めるのがベストなんだが、このタイプっていうのがまあ経験が浅いうちはわかりにくかったり、意外と本人が思うよりも別のところに適正があったりと、見極めるのがなかなか難しいところではある」
「それは先生の大事な仕事の一つです」
「デスヨネー」

 呆れた表情で突っ込みを入れる御幸に顔を向けて、東雲はへらっと笑った。
 御幸の隣で頬杖をついていた恋が小さく笑い声を上げた。

「一年生のときはそれを検討してたって感じだよねー」
「そう。基礎体力作りと個々の特性を調べた。で、かがりもそれをする必要があっていまやってるところなんだな」
「ほう!」

 なにやら驚いたような顔のかがりを見て、当事者にいま気づいたみたいな顔をされてもなぁと東雲はぼやきつつ己の後頭部を撫でた。
 
「で、まだお前の特性はよくわからんのでさておき」
「おいちゃうかー」
「……一応は残念がるんだな。さておき、お前たちはチームメイトでもあるので、みんなの特性をかがりにも知ってもらいながらどんなタイプがあってどう組むのが望ましいかっていうのも理解してもらおうってわけだ」
「よしこい! まかせろぃ!」
「お前はいつも威勢だけはいいんだがなぁ。寝るなよ?」
「ねねねねねねねねネマセンヨ? ダイジョブデスヨ?」
「みんなと一緒に雑談っぽくするほうがかがりも寝ないだろ? 大丈夫大丈夫」

 お菓子を平等に分配した後だが、あまり食べないという人の分をよく食べる人に回すという気配りをしつつ、おかしそうに笑いながら勇斗がフォローした。
 彼にちゃっかりクッキーをねだって受け取りかがりはどうぞと言って妙なファイティングポーズをとった。
 相変わらずおもしろい子だなぁとつぶやき東雲は一同を見渡して、まず並んで座っている開路と勇斗に視線を止めた。
 
「まずはわかりやすいコンビってことで。開路と勇斗。すごくわかりやすい。戦闘技術は完全に開路が主力、勇斗はサポート役という典型的な組み合わせだ。勇斗のサポート能力はいくつかあるが、一番出番が多くて強力なのがナビゲート。機器に頼らず御山の中なら現在地点を自然と把握して目標地点への誘導ができる能力だ。山中戦闘が主である御役目においては重要能力。幅広な刃を持つ鉈の特性を活かした豪快な技の多い前に出る戦闘スタイルの開路に指示を出してベストポジションに誘導するって相性の良さがこのコンビの持ち味だ」
「ほええぇ! カッコいい!!」
「いやぁ、地味な能力だろ?」
「GPS! GPS!!」
「御山限定だけどなー」

 GPS連呼するかがりに勇斗は照れたように返す。横で開路が意地悪な笑みでかがりなら確実に迷子になるもんなと言うと、かがりは大真面目な顔でうんうん頷く。どうやら自覚があるらしい。
 かがりでもGPSくらいは知ってるんだなぁという妙な感心の仕方をするが。自分にはない能力を認めて素直に尊敬するという傾向はいい。東雲はのんびりとやりとりを眺めて改めてかがりの素直さは武器になるなぁと感じる。
 それから今度は御幸と恋を見る。

「で、対するは御幸と恋。このコンビは対照的に戦闘技術の主力は御幸だ」
「んん? どゆこと? 御幸は闘刃なのに?」
「長年道場で鍛えられてる御幸の戦闘技術を恋に投影する。もちろん体力や筋力などは恋がベースになるわけだが、御幸が持っている戦闘技術を恋が真似るって感じかな」
「真似るっていうか御幸に体預けちゃってる感じに近いねー。あ、カラダをアズケルとかなんかちょっとやらしー」
「ちょっと!」

 顔を赤らめて反応する相棒に恋がけたけたと笑い声を上げた。
 何を言ってるのかよくわからないという表情をしていた静春・はがねコンビがきょとんとしていたが、他のコンビは反応に困ったようにしている。
 そんなことでいやらしいとか言える若さが微笑ましいと思いつつ、東雲は聞かなかったふりをして続けた。

「で、まあ御幸が目の前の戦闘に集中する分、恋は戦況の分析に頭を回す余裕が出ると。戦いながら指示を出せるというのが強みだな。俺が恋を参謀と呼ぶ所以だ」
「サンボーカッコいい!!」
「御幸はクラスの中でも、いや、ここ何代かの現役の中では正統派で綺麗な刀身を持つ刀でシンプルに強い上に自身も古来から伝わる剣術の使い手だ。恋も基礎体力頑張ってつけてて継戦能力が上がってきてるから、これからまだまだ伸びるコンビだな。司令塔に向いてる。サッカーでいうとミッドフィールダー、アメフトならクォーターバック、バレーならセッターってとこ」
「つよい……渋い……カッコいいいぃぃ!!」
「……お前の基準はよくわからんなぁ」

 単純にかがりの語彙力が少ないだけなのだろうとは思うのだが、講義で寝るどころか目をキラキラさせてクラスメートを見ている姿を見ていると本心なのだろう。
 恋は笑顔を崩さずにいたが、御幸のほうは口元を歪ませて照れを一生懸命隠している。この可愛らしさが普段つっけんどんな御幸の良さなのだが、あえて東雲は黙っておいた。言わなくても周囲には彼女の魅力は十分伝わっているだろう。
 次に小動物のようにお菓子を両手に持ってちまちまと食べているはがねとその横で妙に男っぽい堂々とした仕草でお茶を飲む静春に目を向ける。

「開路・勇斗組に近い組み合わせなのが静春・はがね組だ」
「ふぎゅ」

 変な声が漏れて、呼ばれると思ってなかったらしいはがねが慌てて食べかけていたお菓子を懸命に飲み込む。ふぁいと小さな声で返事をした。静春がお茶を勧めている。
 学園に来たときはどこか気難しげでとことんマイペースで他人のことを気にかけるタイプではないと思っていた静春だが、意外と面倒見がよく年下のはがねと私生活でも相性がいいらしい。
 笑ってお茶飲んどけと東雲が言うと、はがねはうんうんうなずいて静春から湯呑を受け取って口に含んだ。

「静春も開路と同じく戦闘技術の主力だ。ただサポート能力が外部に向いているタイプの勇斗と違って、はがねの能力は刀の力そのものを底上げするというちょっと特殊なものなんだ。はがねの金属研究の専門家としての知識が能力になってるって感じだな。刀の硬度を任意で上げて、敵のタイプに合わせて受け流しや攻撃の有効ポイントを指示する。それによって盾役としての能力も高い静春の力を相乗効果で高められるという相性の良さが特徴だ」
「すげぃ……なんかすごい……カッコいい!!」
「とうとうわけがわらかなくなってきたか」
「わかんないけどすごくいい!!」

 わからなくてもなんとなくすごさは理解しているのだろうと思うことにして、東雲ははがねに意見を求めた。

「え、えぇと……ただ単純に硬度を上げても刀の性質上、使い方が上手くないとあっさり刃こぼれしてしまったり折れてしまったりするのです。逆に硬度を上げることで使い手に負担がかかってしまうというケースもあったりするので、はがねは状況に応じて硬度をコントロールしているという感じなのです。大太刀は他の武器種と比べて丈夫さとリーチの長さが売りなので、静春さんの攻守を見事にこなせる能力とはがねの能力は相性がいいと思う……のです」

 はがねはたどたどしくそう言いつつも恐る恐る静春を見上げる。そこにはにっこりと嬉しそうな笑顔を浮かべる静春の姿があり、はがねは赤面してもじもじと体を縮める。
 一同が口々に可愛いなぁとつぶやく声が聞こえる。

「はがね殿は普段はこのように可愛らしいのだが、戦闘中に拙(せつ)に凛々しく指示を出してくれるときはたまらなく格好いいのだ」
「カッコいい!!」
「ひょわ……わあああぁぁぁ~~!」

 はがねが耳まで真っ赤にして両手をばたばたと動かして静春を止めようとするが、まったく気にした様子もなく笑顔ではがね賛美を続ける。
 同世代の友人が少なく大人に囲まれて育ったはがねとしては、静春のこういう子供じみた言動には縁がなくていまだに慣れないようである。静春自身ははがねを守り敬意を持つ一方で良き親友としてはがねがちゃんと納得できるまで付き合うといった辛抱強さと、はっきりと意見を述べられる真摯さも持っている。
 静春の駄目なものをはっきり駄目だと言える強さはどこで培ったものなのか、東雲はちょっと気になるところではある。たぶん時代劇あたりで学んだのかもという推測は密かにしているのだが。

「とまあ、闘刃闘手でそれぞれタイプがはっきりしている組み合わせはこの三組で。残る一組の藤華・天祢コンビはちょいと特殊だ」
「トクシュ! カッコいい!!」
「反応早いな。いやまあなんとなく特殊って言葉に惹かれる気持ちはわかるけど」

 指名された藤華がフライング気味なかがりの反応に思わず小さく笑い声を上げた。彼女の横で男子組で固まっている中にいる天祢もわずかに口元に笑みを浮かべている。

「この二人はどちらが主力というか、状況に応じて主力をスイッチングするという感じだ。藤華は突進力を要する直線運動型、天祢は長物独特のリーチの長さを活かした円運動型の攻撃を得意とする。体力や技術のベースは闘手の藤華だから短期決戦型だが、それぞれの持ち味を素早く自然にスイッチングして活かす戦法は他にはなかなかない。これも二人が幼馴染みで顕現が早かったのと学園に入る前から訓練を受けていて師匠を同じくしているからこそなんだろうな」
「んん? 入る前から? シショー?」
「ああ、そのあたりの話はしてなかったか。三枝のじーさまばーさまは知ってるよな?」
「藤華のおじーちゃんとおばーちゃん! 元気?」
「元気よ。たまには遊びにいらっしゃいって言ってたわ」
「行くー!」

 藤華が笑みを崩さずに嬉しそうにうなずく。
 かがりは引っ越して間もない頃に藤華の祖母を町中で助けたときに顕現をしたという経緯があって、藤華の祖父母とは面識がある。

「棟師市内には顕現した子どもたちを訓練する組織として高校からウチに入学するわけだが、それ以前から早くに顕現している子どもたちを集めて指導する施設がいくつかあるんだ。三枝のじーさまばーさまはその施設の一つで指導をされていて、藤華と天祢はそこで一緒に訓練を受けてたんだよ。二人の戦法も師匠譲りだよな?」
「はい。祖父母も長物だから影響を受けた感じですね。私たちが社交ダンスを始めたのも二人の趣味からだったんだけど、コンビで戦うのにとても参考になってます」
「しゃこうだんす……セレブ!? カッコいい!!」
「競技ダンスだからセレブ感があるかどうかはちょっとわからないかなぁ」

 困ったような笑みを浮かべる藤華に、それでもカッコいいよーとかがりは興奮気味である。
 それからふと気づいたようにかがりは一同を見回す。彼女の疑問に反応したのは恋だった。
 
「じゃあみんな高校生になる前から訓練してたの?」
「アタシは訓練は受けてなかったけど一時期通ってたよ。一般の学童保育と併設されてるところが多くて、訓練だけじゃなくて闘刃闘手について教えたりする場にもなってたんだよ。いま思えばそういう指導をすることで顕現した子どもたちの精神的負担を減らそうってシステムだったんだなぁって」
「せーしんてきふたん……ふたん?」
「かがりだっていきなり顕現して驚いたでしょ? 高校生だからいきなり学園に来ることになったけど、小学生とか中学生の時にいきなり顕現したら、え? なにこれ? どうすればいいの?ってなりそうでしょ? 相談にのってあげたり、理解できるまでじっくり説明してくれる大人が必要なんだよ。それにぶっちゃけ顕現したからって闘刃闘手になるとも限らなくて、そういうののアフターケアってヤツも必要だろうしね」

 恋の説明にかがりは首を思い切り傾げた。その顔がまるっきりわからないという心情をわかりやすく表現している。
 苦笑顔で東雲が腕を組んで口を開いた。

「かがりの家はむちゃくちゃ理解があったって話らしいからなぁ。トントン拍子でこっちに転入手続き済ませちゃったんだろ?」
「うん。よくわかんないうちに寮に入ることになってたー」
「お前の意志はどこいったんだ? まあ現代社会において闘刃闘手になるっていうのは昔よりもそうそういい条件じゃないのは確かだからな」
「メリットないってこと?」
「そうだなぁ。慈善事業というには負担がデカすぎる。少子化問題もあるけど、年々なり手が減ってきているのは確かなんだ。御役目どころか訓練に耐えられないって場合もあるし、子どもの将来を考えてつぶしの効かなさそうなことはやらせたくないという親御さんもいるし。もっと深刻なのが御役目をそもそも知らなかったり軽視する風潮だ。昔は地域全体で闘刃闘手を手厚く支援する傾向があったんだが、それも長く続いて近代になるにつれて意識が薄れていった。うちの学園は闘刃闘手を育てるのが主だけど、それ以外に風習を廃れさせないための対策として他クラスを設けたりよその学校とイベント交流するとか若い世代にできるだけ浸透させる活動をしている。どんな戦いだって後方支援がないと前線維持なんて無理だからなぁ」
「難しいね……」
「おぉ、ちょっと難しい話だったか。まあお前は闘手として頑張ってくれるならこちらはありがたいってことだよ」
「んん、そうじゃなくてね。頑張って戦うっていいことなんだろけど、そういうのを嫌われたり軽く見られるのってしんどいんだろうなーって。誰かがやんなくちゃなんないことなのにね。闘刃闘手だけじゃなくてそういう仕事って世の中いっぱいあると思うんだけどなぁ。うまくいかないもんだねー。難しいなーって」

 かがりは腕を組んで悩ましい顔をしている。言葉は拙いが本人なりに真面目に考えていることなのだろう。
 一同が驚いたように彼女を凝視している。
 その居心地悪い視線を受けてさすがに雰囲気が変わったことを察したのか、かがりが目をしばたたかせていた。
 水を打ったような静けさに包まれる中で静寂を破ったのは、それまで一言も喋っていなかった天祢の静かな声だった。

「……かがりはたまに本質をピンポイントで言い当てることがあるな」
「それ、私も思うことがあるわ。かがりちゃんってすごいわよね」
「ほぁ?」

 パートナーに同意する藤華に、かがりはぽかんと口を開いて間の抜けた声を上げる。
 全然わかってないところがらしいよねと笑いながら恋が言うと、御幸は呆れたように長々と溜息をついた。
 東雲も同様にたまに鋭いところを見せるかがりのことは気づいていた。
 今の場合もそうだが、物言いが感情論のように見えて実際にはその言動は論理的だと感じる。だが本人は本当に論理的に思考して発言しているわけではないのだろう。おそらく必要な情報さえ揃えば彼女は本質を見抜くことができる直感の持ち主なのではないかと推測していた。
 そのロジックを超越してなんとなく理解できるという柔軟な直感力はかがりの能力として期待が持てる。

「いまはその手の問題を深刻に悩むことはないさ。そういうのは一人が必死に取り組んだところでいきなり事態が好転するようなことじゃない。御役目は地域全体で取り組んでることであって、組織で変えていくようにしていかなくちゃならないことだから。そんなことよりお前は先に直面する問題があってだな」
「え? なに?」
「コンビのマッチングと相性の話はみんなの特性の説明でわかったよな? じゃあ、今度はお前はどうなのって話だ」
「あたしの? んん?」
「まず武器種、これは関係ないな。どの武器でもお前は扱える。全能闘手と呼ばれる非常に稀なタイプだ」
「うん」
「で、戦闘技術に関しては身体能力がえらく高いけど、小中高と帰宅部でこれというスポーツに取り組んでいた経験もない、武術経験もなし」
「うん」
「……お前、明らかに体育馬鹿を地で行ってるようなタイプなのに、なんで何もやってなかったんだ?」
「えー? 体動かすのは好きなんだよ。スポーツもやるのも見るのも好きだよ? でもどれか一つだけやれって言われるのがねーなんかさぁー。ジャンル違うだけでディスり合うとかめんどくさいなーとか、スカウトされたりしてたけどどっか一ついいよーっていうとまためんどくさくなるとかなんかそういうのがウザい」
「あらま。意外。人間関係にずいぶん敏感なんだなぁ」
「だいたいめんどくさい。いまのクラス、みんな優しいし態度はっきりしてるからてすっげー嬉しいよ。嫌なこととかダメってことちゃんと言ってくれるし。いいと思ったところがっつり褒めてくれるしさ。あとはあれ、ほら、ウチ兄弟多いから、家のこととか手伝いたかったしね。いまだって寮に住んでるの母さんの家事の負担が軽くなるならありがたいかなーって。お金のことも寮生活支援金出てるから心配しなくていいって言われたし。直接手伝いする機会が減っちゃうのはちょっと悪いなぁって思うけど」
「親孝行モンだなぁ。というか東京に長いこと住んでた身としては、こんなに個人情報喋るのって抵抗あるんじゃないか?」
「特にないよー。ウチはけっこーオープン。公立校に行くしかない四人兄弟でそのうち一番下が一卵性双生児なんてどこ行ったって新学期迎えるたびに話題にされるもん」
「なるほど……」

 思ったよりもかがりは特殊な環境下で育っているらしい。
 これは一度家庭訪問をしていろいろ話を伺ったほうがいいかなぁと東雲が考えていると、真顔で恋が挙手した。

「お? どうした?」
「その噂の一卵性双生児なんだけど。これがアイドルみたいなイケメン双子なので、新環境でも絶賛話題沸騰中なんじゃないかと」
「……マジで?」

 思わず真剣な表情でかがりに尋ねると、彼女は首を傾げて見慣れてる顔だからわかんないとあっさり答えた。
 東雲以外はかがりからその双子の写真を見せてもらったことがあるらしく、恋の報告に一様にうなずいている。

「マジかー……謎が多いな古手川家。いや待て。脱線が過ぎたわ。話をもとに戻すとだな。全能闘手っていうのはあんまりにも稀な存在過ぎて、ぶっちゃけちまうとよくわからん」
「わかんないの!?」
「うん、わからん。現役闘手にはいないし、過去の記録を調べてみてようやくわずか数人いたってくらいで。あまり明るい話じゃなくて申し訳ないんだが、先延ばししたところであんまり意味ないからいま言っちまうとな」

 腕を組んで一度顎を天井に向けてから、東雲は構えているかがりを改めて見つめて口を開いた。

「記録に残っている全能闘手は現役期間が他の闘手と比べると短めだ。それがどういうことを意味するのかと言うと、能力的に難が多く、戦闘離脱せざるを得ない状況に追い込まれやすいってことだ」
「ほぁ?」
「ちょっと待ってください! 能力的に難が多いってよくわかりません。誰とも組めるというのが強みじゃないんですか?」

 間の抜けた声を上げた直後に反論の声を上げたのは真剣な表情をしている御幸だった。その反応を東雲は読んでいて、前髪に隠れていないほうの目をつぶり口をへの字にしてうんうんと頷く。

「そうなんだよ。そこが強みでもあり、弱点でもあるんだ」
「弱点?」
「どの武器も使えるっていうことを強みにすると器用貧乏になっちまうってことだ。つまり戦闘技術の一本強化ができなくて、他の闘手よりも戦力がどうしたって劣ってしまう。まあ御厨先生みたいな長年剣術を学んでいて後から始めた長物まで達人級になる怪物みたいな人もいるけど、あれは例外。参考にしちゃダメ。パートナーの俺が言うのもなんだけど、人として規格外だからあの人」
「なんでそこまで言うんですか」
「普通なら闘手のほうが負担がデカくて闘刃と合わないっていうケースが圧倒的に多いんだけど、御厨先生の場合はあんまりにも強すぎて闘刃のほうがついていけなくて変化が維持できないとかいうレアケースを起こしたことがあってなぁ。俺以外と組めないのよ、あの人。現役闘手最強の名は伊達じゃないってね」

 御厨と道場で同門出身である御幸はその凄さを理解できるのか顔をしかめて口をつぐんだ。
 かがりが目を輝かせて両の拳を握っている。

「すごい……最強カッコいい!!」
「カッコいい? 俺も?」
「えー?」
「なんでそういう反応になるんだよ!?」
「だって東雲せんせえにゃんこまみれだったり寝転がってるイメージしかないから最強とかよくわかんないし。御厨せんせえは剣のタツジンだから! カッコいい!!」
「……くっそー。御厨先生がカッコよくて強いのは否定できん。でも悔しい。なんか悔しい!」
「そろそろ話をもとに戻してください」
「…………御幸はクールだなぁ」

 しまらないといった顔をしつつ東雲は後頭部を撫でてどこまで話したっけとつぶやく。

「ああ、そうそう。全能闘手をどう育てるかっていうのが課題になるわけだ。これには俺を含む教官陣も悩んでるところでなぁ。戦力を多少犠牲にしても場合に応じてピンチヒッターとして誰とも組めるように育てるか、全能闘手としての強みを捨てて相性の良さそうな武器種を一本化して能力を伸ばすか。どう思う?」
「わかんない」
「おう。即答か。しかもわからんか」

 真剣な表情であっさりと答えたかがりに東雲は思わず苦笑する。少しくらいは悩む様子を見せるかと思っていただけに意外に感じる。
 一同を見渡し、表情を改めてぱちんと軽く手を合わせた。

「じゃあここから討論だ。みんなの意見を聞こう。前提条件としてかがりの気持ちを尊重したいっていうのはみんな同じだろうから、まずそこを抜きで考えてみような。全能闘手の強みをどうするか、はい」

 合わせた手をぱっと開いて開始宣言をすると、一同は黙って考え始める。その中で口元に笑みを浮かべて頬杖をついたのは恋である。
 一番に意見を求められそうな彼女だが、こうして討論の場を与えられるとだいたい最後に意見を述べる役に回る。リラックスした姿勢は皆の意見を拝聴しようという構えだ。
 東雲は両手を後ろについて足と背を伸ばして生徒たちを眺める。
 こうして考えて意見を交換させる場を積極的に設けるようにしていた。大人の判断だけを求めるような生徒になって欲しくないという東雲なりに担任として経験を重ねた結果による習慣だ。
 かがり以外のメンバーはそうして一年間討論を重ねてきた仲であり、こういうときにだいたい先鋒になるのは誰なのか決まっている。
 ムードメーカーでもあり、常に意見がはっきりとしている開路だ。

「俺は強みがあったほうがいいって思うぜ。もしかしたら誰とも組めるって本人としてはしんどくなっちまうかもしれないけど、俺としては何かあったときに代わってもらえるってすげぇありがたいだろうなーって思うからよ。たとえば俺が病気とか怪我で戦えないってときに勇斗に戦えなくて悔しい思いさせるのはイヤだからさ」
「悔しいっていうのはねーよ」
「そうか? そこでお前、しょうがねーなーって思っちゃうのか?」
「思うよ。あ、でもそうか。俺がフリーになってかがりと戦えるってことになったら確かにちょっと精神的には楽になるかも。俺も開路も」
「だろ?」

 開路と勇斗のコンビはそれで意見がまとまったらしい。彼らは常に考え方がシンプルだ。お互いの気持ちを大事にする傾向がある。
 というのも現役闘刃である勇斗の父、陽斗のことが影響しているためだろう。病床の妻とまだ幼い息子を抱えて御役目と本職とで多忙だった時期があり、結果妻は病で亡くしており、勇斗ともわだかまりがあってすれ違っていたことがあった。いまでは親子関係は良好で仲がいいと知られているが、御役目に対してやりきれない感情を抱いていたことがある勇斗の気持ちを開路は慮っているのである。
 陽斗を隊長とする御役目番所第九番隊に所属している東雲としても上司の陽斗と息子の勇斗との付き合いは長く、過去のことも身近な関係者としてよく知っている。それだけに開路の気持ちもわかるのだ。
 このシンプルな考え方は彼ららしいとも素直な感性からくる優しさの表れだと東雲は思うのだが、彼らよりも長く生きていて闘刃として戦い続けている身としてはそうそう単純な話ではないことを熟知している。だが、あえて水を差すようなこともせずに黙って口元に笑みを浮かべて眺める。
 次に意見を述べたのは開路たちと対立関係になりやすい立場の御幸だった。しかし今回は意見は同じだったようである。

「私も強みを伸ばす方向に一票。全能闘手の強みは唯一無二だから、かがりにしかできなことがあると思う。その可能性を潰すのは惜しい気がするの」

 開路たちとは少し引いた冷静さで意見を述べるのは御幸らしい。そしてその冷静さは必ずしも実利主義ではなく当事者を尊重した意見を導くのが特徴だ。このバランス感覚は彼女の長所でもあり個性でもある。
 そんな御幸にうんうんうなずき、自分の意見はまだと言わんばかりに恋が藤華に視線を投げる。気づいた藤華は指を口元に寄せつつ、ゆっくりと自分の意見を述べた。

「そうね……私も開路くんたちの気持ちもよくわかるし、御幸ちゃんの意見にも納得できるわ。個人的な感情で言うのなら、私が長時間戦えないことを考えるとかがりちゃんに天祢くんと戦って欲しいって思うことがあるかもしれない。天祢くんはそのあたりどう思う?」
「ありだと思う。ただ交代前提で計画的な戦闘ができるケースがあるかどうかちょっと想像しづらい」

 状況を冷静に把握して行動を取る天祢らしい意見である。彼はパートナーに向けていた視線を東雲に向けた。言葉なく静かな表情でじっと見つめられて、少し首を傾げる。

「実戦にはイレギュラーが付きもの。天祢の言う通りだな。御役目は常にもぐらたたきの防衛戦だ。毎回どれくらいの戦闘時間になるのかなんてわからない。でもまあ交代要員がいるっていう精神的な安心感はデカいかもなぁ。ただ天祢と組めるかどうかはちと別問題だ」
「あ、トクシュ?」

 先程の説明をちゃんと覚えていたのか、すぐにかがりが思いついたように声を上げた。その反応の良さを喜ぶようにそうそうと笑顔で東雲が答える。

「藤華・天祢組が特殊な戦闘スタイルなだけに、それにかがりが対応できるかどうかはまた別問題になるってわけだ。まあいまはそれは横においておこうか。それはそれとしてってことで。藤華と天祢はそれを除けば強みを伸ばすほうでOK?」

 二人は同じタイミングではいと返事をする。この呼吸はさすがに生徒の中で最もコンビ歴が長い二人ならではであった。
 藤華がバトンを渡すように緊張している面持ちのはがねと相変わらず堂々と腕を組んでいる静春に目を向ける。
 自分が先に言ったほうがはがねも後から言いやすいだろうという考慮なのか、静春のほうが先に意見を述べた。

「拙も同じく。万能闘手というものが存在するには存在するだけの理由があると思うのだ。それがなんであるのか知りたいことも含めてかがり殿の成長を見たいというのが素直な気持ちだ」
「どこから目線なのよそれ……」
「む。御幸殿はそうは思わぬか?」
「存在する理由というのがどうも曖昧すぎてわからないわ。先生の見解としては万能闘手って自然発生するものだと思いますか?」
「存在する理由とかやたらと哲学的な話になったかと思えば。自然発生なぁ……いまのところはそんな感じで解釈されてるっぽいな。言うなれば突然変異みたいなもんだ。記録に残ってる記述を見る限りでは取り立てて何かの能力に秀でてるという例はなかったらしい。存在する理由があるとするなら俺も興味あるところだなぁ。御山のルーツに触れる可能性もあるし俺の研究対象だから」
「……自然発生のものならばなおさら特性を大事に活かしてあげたいとか、もっと詳しく知りたいとか思ってしまうのは研究者としては当然なのです……はがねとしても」

 可愛らしい顔を精一杯難しそうにしかめてはがねが恐る恐る東雲の言葉を継いだ。東雲は文系ではがねは理系の研究者だが、通じるものがあるらしい。うんうん、わかるわかると東雲が返すと、またはがねは顔を赤らめてうなずき返した。
 ここまで意見が出揃い、一同の目が恋に向いた。

「で、どうよ? 参謀」
「どうよもなにもアタシ自身の意見としてはみんなのひっくるめた感じだし。同意しかないってば。でもそうもいかないんでしょ?」
「はい、反論ヨロ」
「もーそうやってすーぐめんどう押し付けるんだからぁー」
「待って。反論ってどういうこと?」

 苦笑する東雲を一瞥した御幸が訝しげな顔を恋に見せる。めんどうくさそうな顔をして恋が唇を尖らせて説明を始めた。

「御役目番所としては闘刃闘手のなり手が減っている以上、マンパワーの確保と維持が優先度高いワケ。この場合は少しでも長く戦える人員が必要って意味で、だとすると万能闘手の強みを潰してでも闘手として長く戦い続けるってことを優先してその方針を上層部が命令してくる可能性が高いっていうこと、だよね?」
「そゆこと。よくできました。さすが参謀」
「で、そういう命令が出たワケ?」
「出てないよ」
「……マジ?」

 東雲の回答は予想していなかったらしく、恋が顔をしかめた。
 彼女の反応にしてやったりというような悪戯っぽい笑みを浮かべて何ともない風に種明かしをする。

「俺、過去の万能闘手に関する記述のこと、上に報告してねーもん」

 その言葉に一同がそれぞれ驚きの言葉を口にした。
 唖然とする中で東雲がへらっとした笑顔のままでいる。

「俺は番所の中じゃしがないいち中間管理職だからさ、いまのとこ不利益が生じるって状況でもないし命令されてない限りはその方針に従うつもりはねぇなぁ。それにさ、ここでお前たちに意見交換させるくらいなんだから、こちらはそれくらいの覚悟は最初っから決め込んでるのさ」
「しょ……職務怠慢」

 呆れた顔の御幸が溜息混じりにつぶやく。それくらいでは東雲はびくともしない。 

「なんとでもおっしゃい。俺はお前らの教官なんだ。チームを育てる責任者としては上層部の理不尽な命令には従いたくないし、お前らの意見を尊重して守ってやりたいわけ。ただその意見が御役目に悪影響を及ぼす可能性が高い場合はかばいきれない。それだけは忘れないようにな」

 最後には優しい笑顔を浮かべる彼に、生徒たちはそれぞれ思うところがあるのか言葉を発しようとしない。その中でかがりが静かな表情でじっと東雲を見上げていた。
 照れ隠しなのかその視線を受けて東雲がちょっと芝居がかった様子で得意そうな顔になる。

「どうよ、かがり。俺、カッコいいだろ?」
「んんー? せんせえはカッコいいというより優しいよね」
「え? そっち? そこは流れ的に見直したカッコいい!ってとこじゃない?」
「にゃんこに好かれるっていうの、そゆ優しいってとこなのかなー?」 
「……褒められてるのに敗北感を覚えるのはなぜなんだろうな……」

 がっくりと肩を落とす担任に、恋は表情を改めて少し声を落とした。

「ねえ、先生。だとしたらさ、ここでそういう話をするのって良くないんじゃない? 誰に聞かれてるかわかんないし」
「あー、それはいいよ。上だってさすがにアホじゃないんだから、記述のこと気づいてないわけじゃないだろうし、わかってて俺を放置してるんでしょ。何も言われないうちはこちらは適当にやるだけさ」
「ホントそれで先生よく御役目続けてられてるよねぇ。ウチらとしてはありがたいけど」
「そうですよ……先生、無理だけはしないでくださいね」

 心配そうな御幸に大丈夫だってぇと返して手を振る。
 すると東雲のスマホが突如振動した。慌てて取り出して確認する。

「うお! びっくりしたぁ……御厨先生からメッセージだわ。あの人、なんでこういうときむちゃくちゃタイミングいいんだろうなぁってもうこんな時間か。そろそろお開きだなー」
「あ! そうだ! せんせえ、一つ訊いてもいい?」
「あいよ?」

 メッセージを確認した後スマホをしまいながら東雲は質問してきたかがりに返す。
 かがりは少し食いつき気味に疑問をぶつけてきた。

「せんせえと御厨せんせえの戦闘タイプってどんなの?」
「あー、言ってなかったな。闘手の御厨先生が完全主力で俺はのんきにサポートっぽいこと言ってるだけ。俺のパートナー最強だもん、なんもすることねぇし」
「のんき……カッコ悪い……」
「え? あれ? 株が下がりまくってる!?」

 飲み食いした後片付けをしながら笑い声が漏れてくる。かがりもおかしそうに笑顔を見せた。
 その笑顔に満足したように東雲は片した会議室から皆を外に出して部屋を確認し、生徒たちを出口まで見送る。
 その途中でかがりに声をかけた。

「個人的に思うところはあるだろうけどさ、みんなで解決していこうな。みんなもちゃんと一緒に考えてくれるし協力もしてくれるからさ」
「うん」
「よし。それじゃ解散! また明日な」

 手を振る東雲に一同が挨拶をして建物から離れる。それを見送り、東雲は一度体を伸ばして再び中に入るのだった。




「かがり、東雲先生の言うこと、真に受けちゃダメだよ?」
「え? どして?」
「かがりは素直だからこれだけは言っておかないと」

 帰り道に恋がそう話しかけてきて、かがりはきょとんとした顔になる。勇斗が神妙な面持ちで同意を示した。

「そうそう。東雲先生な、普段言ってることは信頼できるけど、自分のことだけはなぜかごまかしちゃうんだよなー」
「ごまかすって何を?」
「東雲先生のサポート能力は俺や父ちゃんのナビゲートにプラスして敵味方の居場所を察知する索敵っていうむちゃくちゃ強力なものなんだ。この能力を持ってる現役闘刃は他にはいないって話だよ」
「ほ……ほええええぇぇぇぇ!? マジで!?」
「マジで」
「マジでチート級だよな。他にも能力あるんだろ?」

 開路が藤華を見ると少し困ったような笑顔を浮かべつつもそれに答える。

「そうね、確か一瞬だけ不可視の防御壁を作る避盾、攻撃距離を伸ばす追加、攻撃効果を爆発的に上昇させる倍加、闘手の疲労を肩代わりする代替……くらいしか私は聞いてないけど」
「くらいっていうかそれだけ強力な能力をたくさん持ってるとかおかしいよな。御厨先生のことむちゃくちゃ持ち上げてるけど、東雲先生自身もそれだけすごいってこと」
「ま……マジで!?」

 開路がうんうんうなずく。後頭部で指を組んだ勇斗が苦笑した。

「御厨先生が現役闘手最強なら、東雲先生は闘刃最強だよ。すげぇ謙遜するんだよな、昔っからああでさ」
「え、いやもうマジ東雲せんせえサイキョーカッコいいんじゃない!? なんでみんな黙ってるん?」
「だから本人ごまかしちゃうんだって。恥ずかしいんだかなんだかよくわかんないけど」
「……それはきっと額の傷跡の件があるからだろうな」

 小さくつぶやく天音の声に藤華も御幸も少し顔を曇らせる。勇斗もそうだよなぁとつぶやいた。

「どゆこと?」
「東雲先生と御厨先生は戦闘で怪我を負ったことがあるんだ。東雲先生は額に傷跡残っちゃって、御厨先生は目を負傷しちゃってさ。御厨先生はその後遺症で長時間の戦闘ができなくなっちゃって、イレギュラー戦闘員で構成されてる父ちゃんの隊に所属することになったんだよ」
「そだったんだ……」

 そこにもしかしたらなんだけどと前置きをして思案顔で切り出したのは恋だった。

「東雲先生が上からの命令に従いたくないっていうのは、かがりと組む可能性を考慮してるのかなって」

 皆が足を止めて無言でいる。その雰囲気は恋の言葉を肯定的に受け止めている様子だった。
 御幸が長々と溜息をつく。

「その可能性は考えてるかもね。それだけ先のことくらいは見据えてそう」
「私もそう思うんだけど、東雲先生は御厨先生が闘手として強すぎて自分以外の闘刃とは組めないって言ってたよね? だったら逆に東雲先生は武器種が合えば誰とでも組める人なのかしら?」

 強力すぎてってことかと確認する開路に疑問を口にした藤華が頷く。 
 それはわからないなぁとあっさりと答えたのは恋である。

「試してみるつもりはあるんだろうなーって気がするけど。かがり的にはどう? 先生と組むことがあるかもしれないっていうの」
「んん? いいんじゃない? あたしが藤華や御厨せんせえみたいに長い時間戦えない人の代わりをできるっていうなら全然ありでしょ。というかそっか。そういう役目があたしにしかできないってことなのかー」
「いまさらなに言ってんのよ、あんたは」

 こういうときに即座に突っ込みを入れる役になりがちな御幸が切れを見せた。
 かがりのほうは納得顔でそうかーと何度も言っている。

「あたし先生にはわかんないって言っちゃったけど、やっとわかった気がする!」
「討論が役に立ったようで何よりだ」

 嬉しそうに言う静春とその横ではがねも笑みを浮かべている。
 照れくさそうに笑ってかがりは改めて皆を見てにかっと笑ってみせた。

「そっかそっか! これがみんなで解決するってことなんだね!」

 だからいまさらなに言ってんのよと再び御幸が言うと、一同から笑い声が生まれるのであった。 




【おしまい】
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