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国土交通省で主に河川やダムの事業に関わり東北地方整備局副局長を務め、現在は一般財団法人「水源地環境センター」の業務執行理事である安田吾郎氏が、2020年7月豪雨で被害の大きかった球磨川を現地踏査した。氾濫から数日後に現地入りして撮影した被害状況などの写真を基に、球磨川流域のルポを複数回にわたってお届けする。まずは「流木被害」だ。
今回の球磨川での水害の特徴は急激な増水と10m近くに及ぶ浸水深にある。流木災害の側面は影に隠れがちだ。しかし、流域を歩くと随所に激しい流木被害の跡が残っている。八代市坂本町の球磨川右岸沿いにあった建物が印象的だった。上流側から見たところ、開口部はびっしりと草と木で覆われ、串刺し状態で建物全体が川側に傾いているように見える。
坂本の上流側は人吉盆地が広がり、球磨村渡の集落になる。同集落には14人が亡くなった特別養護老人ホーム「千寿園」がある。岩手県岩泉町で高齢者グループホームの居住者全員が亡くなった2016年の台風10号の場合には、被災施設は小本川の河畔に位置していた。一方、千寿園の場合には球磨川河畔からは坂道を上った場所に位置していた。支川の小川に隣接していた影響もあるが、浸水深が10m程度にも達した中で、多少地盤が高い場所でも1階部分が水没するに至ったとみている。
渡の国道沿いでは信号機に漂着物が絡まり、ここでも流木が建物に突き刺さっていた。
国道だけではなく線路も流木で塞がれていた。もっとも鉄道は落橋や土砂崩落により随所で寸断されており、流木による被害どころではなかった。
さらに落橋した相良橋の近くまで進んでいくと、2階のひさしの上に流木が引っ掛かり、破壊された建物と流木が一体となって道路を塞いでいる場所に出くわした。
なお渡地区では、流木の問題もさることながら、浸水被害も深刻だ。2階の屋根の上まで浸水した家屋が多く見られた。水が球磨川の狭窄(きょうさく)部で流れにくくなって河川の水位が高くなり、そのすぐ上流に位置する渡地区は今回のような浸水が生じやすい場所だったのだ。
流木の多さは渡地区や下流部に限った話ではない。人吉市中心部から2kmほど下流にある西瀬橋にも大量の流木が堆積していた。橋によるせき上げで、両岸に流木が堆積したとみられる。
西瀬橋を右岸の上流寄りから見ると、流されずに残った橋桁部分にも多量の流木が突き刺さっていることが分かる。
◆西日本豪雨よりは流木量は多くない印象
流木被害は球磨川本川だけではなく、川辺川ダムが計画されていた川辺川筋でも見られた。川辺川でも越水が発生し、堤防法裏の洗掘や樋管の損壊などが生じた。
球磨川本川を上流に向かい、今回の水害で異常洪水時防災操作(緊急放流)をぎりぎりのところで回避した市房ダムを見た。ダム湖の中流部に流木がたまっていた。しかし、17年九州北部豪雨時の寺内ダム(福岡県朝倉市)のように流木で満杯といった状況ではない。
さらに上流へ進み市房ダムの流入端付近に行くと、親水公園になっている場所に流木が堆積していた。
球磨川は上流から下流まで様々な場所に流木の爪痕が残り、河口がある八代海にも大量の流木がゴミと一体となって流れ込んだ。
一方、今回の球磨川の水害は、17年九州北部豪雨での福岡県や大分県、18年西日本豪雨での広島県や岡山県の状況と比べると、水害の規模の割には山地の崩壊が少なく流木の発生も少ないように感じる。球磨川流域でも、24時間雨量で600mm以上を記録した芦北町方面など特に降雨の強度が強かった地域では山地が崩壊した場所も多い印象だが、全体的にはぎりぎりのところで大規模な山地の崩壊は避けられた場所もあったと想像する。
そう考えると、上流の山地が森林で覆われている河川では、今回のような流木災害はどこでも起こり得るものと想定しておくことが適切だ。山地の崩壊を招きやすい、強度がさらに強い豪雨があった場合には、さらに厳しい状況も想定される。
これまで河道や氾濫原での水位の計算を行う際に、流木や草によるせき上げの影響は、実績水位の検証を通じて粗度係数として取り込まれている場合があったと考えられる。しかし橋の高さに届くような水位を経験したことが無い河川の場合には、そこまでの影響を見込んでいない場合もあるだろう。
今回、球磨川では、水位が河岸や堤防の高さを大幅に上回り、橋梁などに絡まる流木の影響も相まって川の流れを阻害し、氾濫流に乗った流木が家屋などの被害を増やすという構図を生んだ。気候変動の影響を踏まえた河川整備基本方針の見直しに当たって2~3割の流量増を見込むことが求められるなか、河川計画を検討する際に留意すべき課題がさらに加わったと思われる。