さかなのかげふみ @Spia23Tc

https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00001/00078/?P=4

 昨年秋に始まった電力市場の高騰は、歪んだ制度設計と世界的な資源高が相まって終わる気配がない。新電力の経営環境は悪化の一途をたどっており、既に新電力の電力供給量の90%を担う上位54社は、全社が法人契約の新規受付を停止していることが分かった。

 電力会社との契約ができない“電力難民企業”が続出している。昨年から続く資源価格の高騰を背景に、大手電力も新電力も企業が利用する高圧・特別高圧の新規契約を停止しているためだ。

 異変が起き始めたのは2022年頭。契約更新や見積もりを辞退する新電力が出始めたのだ。昨年秋から続く電力市場の高騰で、電力調達コスト(仕入れ価格)が上昇し続け、これまでの電気料金水準での供給が難しくなったためだ(「ウクライナ侵攻で企業向け電気料金が青天井の危機」)。

 既存顧客へのサービス継続すらできないのだから、他の新電力や大手電力からの切り替えを希望する新規契約など引き受けようもない。新規契約の受付を停止する新電力も徐々に増えていった。

 「新電力の受付停止の動きが加速した契機は、今年1月頃に中部電力ミライズが高圧契約の新規受付を断り始めたことだ。大手電力すら新規契約を断っていることを知り、それまでこらえていた新電力が雪崩を打ってギブアップし始めた」(関係者)。

 実際のところ、新電力が契約更新を辞退し始めた時期と、大手電力の受付停止のタイミングはほぼ同じだ。しかし、大手電力各社はWebサイトなどに企業向けの標準メニューとその料金(標準約款)を掲載し続けてきた。

 受け付けを停止している情報は一切、記載されていなかったため、「新電力と契約できなくとも大手電力とはできるだろう」と考えていた企業は少なくなかっただろう。

 大手電力の受付停止が広く知られるようになったのは、4月15日に萩生田光一経済相が記者会見で大手電力に対して、標準料金での受付を停止しているのであれば「開示することが望ましい」と発言したのがきっかけだ。その後、北海道電力と沖縄電力を除く7社の大手電力各社が、受付停止中であることをWebサイトに掲出した。

 高圧・特別高圧の電力契約は1年契約が多い。更新時期が近付いてきたら、次年度の見積もりを取り、契約を締結する。新電力から契約更新を断られ、他の新電力にも大手電力にも断られて驚愕する企業が後を絶たない。

 ちなみに大手電力の標準料金とは、電気料金におけるメーカー小売希望価格のようなものだ。自由化以前は、どんな企業でも申し込みが可能だったメニューである。2000年に電力部分自由化を迎えると、大手電力や新電力各社は標準料金に対して値引きを提案するようになり、標準料金が事実上の上限価格になった。つまり、大手電力の標準料金は、すべての企業が申し込み可能な受け皿でとして存続してきたのだ。


◆新電力で新規受付を継続しているところは皆無

 では、新電力はどのような状況なのか。経済産業省が毎月公開している「電力調査統計」の「電力需要実績」 を見ると、大手電力と新電力各社の電力供給量(電力販売実績)が報告されている。

 現時点で最新の2021年12月の特別高圧・高圧データによると、新電力が供給している電力量の90%を、上位54社で賄っていることが分かる。さらに、上位180社で99%に達する。

 そこで日経エネルギーNextは、電力購入支援サービスを手がける日本省電の協力を得て上位54社の新規受付状況を調査した。上位54社の社名や電力供給量は電力調査統計を参照してほしい。ちなみに新電力トップはエネット(東京都港区)、第2位のテプコカスタマーサービス(東京都港区)である。

 まず54社のうち新規契約を従来通りに継続しているところはゼロだった。1社たりとも新規契約を受け付けていないという事実に、事態の深刻さが表れている。

 この54社のうち、破産したホープエナジー(福岡市)に加え、高圧・特別高圧からの撤退を決めた新電力が4社あった。事業を継続している50社のうち、40社は「新規受付は停止中」。各社とも再開のめどは立っていないとした。

 残る10社は、条件を満たした場合に限り新規契約を受け付けている。だが、この「条件」が非常に厳しい。例えばハウスメーカー系の新電力が「自社で手掛けた建物に限って受け付ける」といったもので、一般的な申し込みは受け付けていない。自社およびグループ企業に限って受け付けているというところもあった。

 このほか「最終保障供給より高い料金であれば受け付けを検討する」「市場連動型料金であれば受け付けする」など、電源調達コストの上振れリスクを需要家(電力の利用者)が負うのであれば供給すると答えた新電力が数社あった。また、「高圧で負荷率15%以内の拠点に限って受け付けする」といった回答もわずかにあった。

 これまで通りに事業を継続している新電力は存在しない。法人需要家は大手電力とも新電力とも新たに契約することができない。既存契約の更新を断られるケースも多く、国がセーフティネットとして用意している最終保障供給を利用せざるを得ない状況に追い込まれている企業は増加し続けている。


◆急増する最終保障供給の申込数

 電力・ガス取引監視等委員会によると最終保障供給の申込件数は3月以降、急激に増加しており、4000件に上ったという。

 そもそも最終保障供給は、電力会社の倒産など特別な状況が起きたときに暫定的に利用するセーフティネットだ。多くの需要家がサービスとして使う仕組みではない。

 繰り返しになるが、電力はライフラインだ。法人需要家にとって電力供給の停止は、事業活動の停止を意味する。電力市場の高騰と燃料価格の上昇を理由に、最終保障供給しか電力供給を受ける手段がない日本の現状は異常だ。

新電力は「新規受付再開のめど立たず」
 では、新電力の新規受付再開はいつになるのか。監視委員会の委員会では、最終保障供給の料金水準が安すぎるため、需要家が新電力と契約せずに最終保障供給を選択してしまうのではないかという指摘があった。

 現在、最終保障供給は標準料金の1.2倍に設定されている。これを1.5倍などに引き上げれば、新電力が新規受付を再開できるのではないかという考え方だ。だが、多くの新電力がこの指摘を否定する。

 新電力が受付を中止している理由は、電源調達コストの上昇に耐えられなくなったためだ。昨年秋から続くJEPX(日本卸電力取引所)スポット市場の高騰に歯止めがかからず、電力を売れば売るほど赤字が積み上がる構造に陥ってしまっている。これまでの実質上限価格だった標準料金以下の水準では、提供することができなくなってしまったのだ。

 今回調査の対象とした新電力上位54社のほとんどが「標準料金の2倍など、これまでに比べてかなり高い料金水準で提案できるようになったとしても、新規受付の再開は不可能」としている。


◆JEPX高騰は深刻、歪な制度設計が真因

 新電力が新規受付を再開できない理由は、つまるところJEPXスポット市場の高騰が収まらないからだ。

 ある大手新電力幹部はこう語る。「最終保障供給の価格を見直しても受付再開など到底できない。相対契約など価格を固定できる電源の量は非常に少なく、JEPXで電源を調達しなければ供給できない。だが、JEPXの高騰は収まる気配がない。JEPXスポット市場の制度上の上限価格は、需給逼迫時のインバランス料金の200円/kWh。電気料金を200円/kWhに設定するくらいでなければ、今は再開できない」。

 現状の高圧の電気料金単価が20円/kWh程度だとすると、200円/kWhは10倍だ。この金額は極端だとしても、電力需要が少なく、例年なら市場価格は低価格で推移する4月ですら、これまでには想像できなかったほどの高値を付けている。

 4月のJEPXスポット市場は、1日48コマの最高値の平均金額は30円/kWhを超え、通常時のインバランス料金上限の80円/kWhを付けた日もある。これまでの常識では荒唐無稽に感じるほどの値上げが可能にならなければ、新電力は新規受付を再開できない。つまり、最終保障供給の価格水準を少し変える程度の小手先の対応では、事態は改善できない。

 それほどまでにJEPXスポット市場は悲惨な状況にある。世界的な資源価格の高騰により、火力発電の原価は上昇している。ロシアによるウクライナ侵攻により、資源価格はさらに高くなる可能性すらある。

 仮に早期の停戦が実現したとしても、ドイツなどの欧州諸国がロシア資源への依存度を下げると表明している以上、天然ガスや石炭を巡る熾烈な争奪戦は続くだろう。

 さらに、大手電力の中でも相対的に資本力の小さな事業者が、資源価格の高騰によりエリア需要を満たすだけの燃料調達をあきらめてしまったと聞く。

 「大手電力の中でも購買力に乏しいところは、LNG(液化天然ガス)を高騰しているスポット価格で買うくらいなら、燃料制約を理由に発電所の稼働を落とし、不足した電力をJEPXで調達したり、燃料調達に長けたJERAなどから融通を受ける方が安くつくと考えている。自社で調達するのは安価な長期契約のLNGだけ。安定供給の議論を横に置いておけば、そうするほうが収益面ではプラスに働く」(関係者)。

 燃料を調達せず、発電所の稼働を落とせば、当然ながら電力は不足する。JEPXスポット市場がたびたび売り切れになり、高騰する理由の1つだろう。各エリアで発電設備を独占する大手電力には、資源高の局面でも収益を確保するための手段がある。だが、新電力には打つ手がない。

 日本の発電事業は、自由化しているといっても大手電力の独占が続いていることに変わりはない。しかも、東京と中部を除けば、発電部門と小売部門は分離されていない。電力自由化によって小売りでの競争を促進するのであれば、真っ先に大手電力の発電と小売りを分離する「発販分離」を実施するのが筋だった。

 発販分離が行われなければ、いつまでたっても大手電力と新電力が公正中立に競争することはできない。JEPXスポット市場の不可解な高騰もなくならないだろう。この先も、高圧・特別高圧から撤退する新電力は増え、受け付けを再開する新電力は早期には現れないだろう。

 この状況が続けば、高圧・特別高圧に比べて利益率が高い低圧でも同じことが起きる。消費者が電力を契約できない事態が、すぐそこまで迫っているのだ。


◆立民の質問で明らかに、政府は現状を誤認している

 大手電力も新電力も新規受付を停止し、最終保障供給への申し込みが急増する異常事態に、政府はどのように手を打つつもりなのだろうか。根源的な課題を、どのように認識しているのだろうか。

 立憲民主党の逢坂誠二代表代行は4月1日、昨今の電力難民問題に関して質問主意書を提出した。この中に「消費者が電力会社を選ぶ選択肢が全くなく、どの小売電気事業者にも受付を断られ、最終保障供給への申し込みが急激に増加し、それが常態化することは電力システム改革の趣旨に反するのではないか」という問いがある。

 政府が4月12日に公表した回答を見てみると、現在の異常な状況を正しく認識できていない、もしくは認識したくないという姿勢が見える。下記に、質問主意書への回答を抜粋する。 

 「政府としては相当数の小売電気事業者が存在していることから、ご指摘のような事態が生じる可能性は低いと考えているが、仮に万が一、ご指摘のような事態が生じた場合には、需要家による電気の供給者の自由な選択が阻害される可能性があると考えている」

 相当数の小売電気事業者が存在しているとは、大手電力10社に加え、新電力の登録企業が740社いることを指しているのだろう。これだけ多くの小売電気事業がいるのだから、契約先が見つからないなどという事態は起きないとしている。

 だが、既に大手電力も新電力も新規受付を停止している。消費者は自由な選択どころか、小売電気事業者から電力供給を受けることができず、最終保障供給というセーフティネットを利用せざるをえない事態に陥っている。

 残念なことに、4月26日に政府が発表した物価上昇への緊急経済対策にも電気料金への言及はなかった。これまでも国会で延々と議論してきたガソリン補助金の期限は9月末に延長された。しかし、ガソリンよりも電気料金の方が企業活動や消費生活へのダメージは大きい。

 政府に一刻も早く認識を改め、正常化への方策を取ってもらわないことには、日本経済全体が停滞しかねない。

 資源価格の高騰は当面、収まることはないだろう。難しいかじ取りを求められていることは百も承知だが、エネルギーは国家の根幹だ。ごまかしは効かないし、逃げ道も存在しない。

山根小雪

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第208回国会
38 「旧一般電気事業者による高圧受電顧客の新規受付停止に関する質問主意書」https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/208038.htm
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