ゆりゆり @lelie_azucena

2022年07月06日(水) 13:48:12

ジャンおみ小話(年齢問題)

 生まれた日を知っている。
 この体に継がれた血の源を知っている。
 祝ってくれる人がいる、生まれた日が記録に残っている、自分の根源を当たり前のように理解している……

 けれど、世の中にはそうでない人間も──残酷なほど──多いのだろう。

 彼には拾われた日が一応そういう「記念日」だったはずだが、実父と邂逅した後も彼の中にあるささやかな根拠、根源が消えることはなかった。
 一年、一年、彼は命を削られる。
 だから何よりも、心を通わせた者だけが大事だと言った。自分を受け入れてくれた母と弟、下街の騒がしい住人たち。彼は「一応だ、一応」と付け足したが、居場所となった組織内にもそれなりに恩義を感じてはいるようだ。

 だからおまえが気にすることなんか、何もねえよ。
 おまえを祝うのは楽しいんだぜ、子供丸出しの顔が見られるから。俺はこんな生まれだからとか、そんなことを引き比べて拗ねるほど暇じゃねえ。おまえが幸せならそれでいい、おまえが大人になっていくのを見るのは、俺も嬉しい。
 おまえの過去も知っちゃいるが、絶望するにはまだ早すぎるんだよ。

 意訳すれば、つまりそういうことをジャンは言っていた。
 同じように突っかかって子供じみた喧嘩をする相手でも、やはり年上の説得力があると思うのはこういう時だ。
 不思議な生き物。
 生きた古代遺産である自分を、妖精としての自分で護っている……不思議な、狂暴な、そして優しい生き物。




……なんでこんなに長いままにしておくんだろう、手間が掛かるだろうに、と優が常々疑問に思う金髪が揺れた。
 そもそもこの日に、二人とも日本にいて仕事予定すらないとは信じられない。そうは言ってもジャンは『前夜』を狙い撃ちで日本支部に現れた訳だが。
 あとはもう、優の部屋だけのできごとだった。


「なあ、ジャン。今さらだけどさ……この髪、願掛けでもしてんのか?」
「──あ……?」
 かすれ声の応え。
「ああ……朝か」
 獣は体を起こしながら、熱情ではない重さで優に覆いかぶさる。
「朝だよ。寝坊していい朝なんて何か月ぶりだろ、俺」
「Aujourd’hui……おまえの日だよな?」
 肌に髪が当たって、フランス語の響きも相まって、どうもむずむずする。優は笑いたくなった。
「それ、昨夜も日付越えて言ってただろ。死ぬほど聞かされた」
 慣れない『タンジョウビ』って発音がやたらはっきりしてて、面白かった──とまで優は言わなかった。これほど眩しい朝に諍いの種は要らないだろう。しかしジャンは、口に出されたのと同様の反応を示すのだ。
 息が奪われる。そのうち、それは共同作業になる。本当に不思議だなあと優はぼんやり思った。
 不思議だ。何が? なにもかも。
 今日は血を見ないで済むことが。今日、二人でいることが。そして……
「一年で今日しか言えねえだろうが、このガキ。──また来年の今日まで……死にそうになっても、何がどうなっても──生きてろよ」


 そうだ、生きていることが!
 生まれた日がいつだろうと、何ひとつ知らなくても!


「ずりぃよ、俺だけに約束させんなよ。おまえも絶対」と優が猛反発した結果、「ああ分かった、分かった。俺も来年の今日までは、まあ何とかな」とジャンから言質を取ることに成功し、二人が平等条約を結ぶに至った七月。

 それは夏の初めの一日だった。










 *****

 随時、加筆修正すると思います。
 20数年ぶりに書いたジャンおみ……当時から今に至るまで、三人称で「優」と書くのはどうもムズムズする私……
 敵以外からはほぼ全員「優」で呼ばれているのにジャンだけが頑なに名字呼びするものですから、どうも慣れないんですよね。自分の中では昔からずっと「おみ」呼び。

 そこもいつか突き詰めたいものです。例外はあるでしょうけれど、だいたい外国人ってフランクに名前で呼ぶイメージなので、敵どころかアーカム身内であるジャンの、いつまでたっても名字呼びは物凄く異質なんですよ。
 だからと言って心を許していない訳ではないし、ジャンに質問してみたいNO.1。

 英語で会話する時は多分、シレッと「You」にはダブルミーニング引っ掛けていると思うんですけどね。……いや、引っ掛けなくてもナチュラルにWミーニング。
 日本語発音で「ゆう」ってちゃんと言えるのかね。24歳のお兄さん。
(もともと彼には兄属性ついてるけど)


 ※7/6 21:00追記
 加筆修正を繰り返しております。そして長くなる。







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